より良い場所を探してしまう若者の気持ちはわかる
————最近は一般の企業でも、最初から数年後の独立や転職を見据えて入社してくる若手が増えていると思います。いつか旅立つことばかり考えている部下に対して、体重を乗せて指導するのは難しいような気もします。
栗山:本音を言えば、僕も最初はそこが気になりました。ただ、よそに行かれるのが嫌だからチャンスを与えないような人間にはなりたくないじゃないですか。だからできる限りチャンスを与えるし、人が育てば、その分、どこかで必ず世の中のためになってくれる。そう思うしかありません。会社のおかげで自分の可能性が広がっていることに、若いうちはなかなか気づけないですよね。でも、きっとどこかで気づくと思うから、その時に、次の世代に恩を返してくれるはずだと信じています。
そして、相手がどう思っていようが、全力で向き合っていれば、必ずそれに反応してくれる人が出てくる。僕の魂に触れることで、「この場所でとことんやってみよう」と思う人が必ず出てくる。と言いつつ、より良い場所を探してしまう若者の気持ちも分かりますけどね。自分のキャリアを優先することは許せます……茶髪は許せないですけどね(笑)
親父に首根っこ掴まれて言われた言葉
————今年から栗山さんは北海道日本ハムファイターズのチーフ・ベースボール・オフィサー(CBO)を務めており、原則的に二軍選手の染髪を全面禁止にされました。そこは今の時代に合わせないんですね。
栗山:そこは変わらないな。僕は小学校の時にずっと坊主だったのですが、途中で伸ばしたくなって、床屋に行って少し長さを残してもらったことがあるんですよ。で、家に帰ったら親父に首根っこを掴まれて、再び床屋に放り投げられて。そして「お前が金を稼ぐようになったら好きにしろ。養われているうちは俺が決める」って言われました。
その理論だと、二軍の選手は球団に養われているので、やっぱり規律は守らなければいけない。ダメなものはダメ。それを言うのは、僕としては優しさじゃないかと思っています。でも、これまで僕が禁止令を出したことがあるのは茶髪くらいですよ。間違っているかもしれないけど、こういう変な親父がいてもいいじゃないですか。
何歳になっても、自分ができると信じ切れれば、可能性は途絶えない
————今は生き方や働き方が多様化していて、仕事や副業や趣味や育児など、やりたいことを全部頑張る“二刀流”や“三刀流”も目指しやすい時代です。「いや、そんなの無理ですよ」と、自分の可能性を信じ切れない人が自分のチームにいたら、栗山さんはどうやって意識改革を促しますか?
栗山:今回の本にも書きましたが、「俺はお前ができると思っているのに、なんでお前が自分を信じないんだよ。バカか」みたいなことを言うかな。要するに、あなたができるということを信じている人がいる、ということを伝えます。
本当に、人生は何が起きるか分かりません。僕もプロテストでプロ野球の世界に入った頃は、いつか自分がWBC の決勝戦に監督として参加できるなんて夢にも思っていませんでした。何歳になっても、自分がそれを本当にできると信じ切ることができれば、可能性は途絶えません。諦めずに行動していれば、必ず人生の勝者になれる。僕も、いつまでも夢を追いかけ続けたいと思います。
前編「侍選手が「監督、近っ!」栗山英樹の次元の違う熱量の源とは?“落ちこぼれ選手”から“世界一の監督”へ、人生を切り開いた「信じ切る力」」>>
栗山さん撮影/杉山和行(講談社写真映像部)
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