今日も、明日も

固まった私に気づかず、優也はハンバーグをテーブルに運んでくれる。

「そういうママは、ときどきおうちで泣いちゃったりするんだって。でも、学校の楽しかったこと教えてあげると、元気になるって言ってた! だから僕もママにいっぱい学校のお話するね。バザーも来てほしいって思ってたんだ。バザー、僕たちもお店やさんやるんだよ! ママに似合う髪の毛縛るゴムもあるから、絶対買ってね。楽しみだな~」

「……優也、ありがとう。うん、絶対買いに行くよ。楽しいお話もたくさん教えてね」

ぎゅうっと抱きしめると、優也の体はほんの1カ月前、入学式の前よりも体つきがしっかりしている。ランドセルを背負って毎日40分の通学路。最初はどうなるかと心配していたけど、体調を崩すこともなく、休まず学校に通っている。

――学校って、どこに行くかって、そんなに大事だったのかな?

もちろん「第一志望に不合格でよかった」「今の学校のほうがいい」なんてまだ言えない。中学受験をするかしないかも、正直言って今決めることはできないから、言い訳を並べて入塾を遅らせた。

それでも、今目の前にいる優也が、明日を楽しみにしている。体も丈夫、友達もたくさんできた。

どの学校に行くかは、それよりも大切なんだろうか? 夫の一族が納得してくれないからといって、全部失敗なんだろうか。

……胸のうちにうまれたその問いの答えを、この期におよんでまだ断じることができないのが情けない。

それでも、きっと時間が経つにつれて形になっていく。今日みたいに。それを今、確かに信じることができる。

それが毎日、生きるということ。その重み。今日も明日も、一歩ずつ生きていく。たとえ思い描いた通りじゃなくても。

私は、優也と二人、手を合わせて、熱々のハンバーグを食べ始める。
 

次回予告
妻に秘密を抱える夫。ある日、鞄の中からどんでもないものが無くなり!?
小説/佐野倫子
イラスト/Semo
編集/山本理沙
 

「ママは夜、泣いてるんだって」小学校受験で第一志望に落ちた家庭の癒えない傷…意外なところから射す希望の光_img0
 

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