「光州が原点だ」。BTSのJ-HOPEは、アマゾンプライムで配信中のドキュメンタリー「HOPE ON THE STREET」で、ダンサーとしての自身のルーツについてこう語っています。1980年5月18日から10日間にわたって起きた光州民主化運動に象徴される「民主と人権を象徴する街」としても知られる韓国南西部の中心都市。故郷・光州についてJ-HOPEは、「Ma City」「Chicken Noodle Soup(feat. Becky G)」など多くの楽曲で歌ってきました。
約150万人が暮らす大都市で、東方神起のユンホやMONSTA Xのヒョンウォン、元miss A スジ、ATEEZのYUN HOなど、この街出身のアイドルもずらり。光州とはどんな街なのでしょうか。J-HOPEゆかりの地と、おススメの旅のスポットを、ライター桑畑の独自取材に加え、翻訳を手がけたBTSの聖地ガイドブック『THE PURPLE ROAD 練習生時代の思い出の場所から、ミュージックビデオの撮影地まで』(KADOKAWA)、『BEYOND THE STORY ビヨンド・ザ・ストーリー:10-YEAR RECORD OF BTS』(新潮社)を引用しながらご紹介します!
J-HOPEが「Ma City」で歌った、光州5.18民主化運動とは?
BTSのメンバーがそれぞれの故郷について歌う楽曲、「Ma City」で、J-HOPEはこんな歌詞を書きました。
みんな押せ062-518
この歌詞について、オフィシャルブック『BEYOND THE STORY ビヨンド・ザ・ストーリー:10-YEAR RECORD OF BTS』(新潮社)では次のような説明とJ-HOPEの言葉が記されています。
「062」は光州の市外局番で、「518」は1980年5月18日に光州で起きた光州5.18民主化運動を意味している。依然としてインターネット上では5.18民主化運動を批判、中傷し、地域対立を助長する人々が存在するが、J-HOPEは故郷に対するプライドを表現した。そして、自分が生まれた場所の歴史について学び、自らを振り返ることができたのだ。
――僕は地域対立についてよく知りませんでした。まず僕自身に地域が対立する感情と言うものがありませんでしたし……。でもソウルに来て、そういうものがあると知り、その時初めて感じたんです。「何だろう。これってどういう気分だろう。どうして僕が生まれた場所について、こういう言葉を聞かなきゃならないのか。なぜこんな感情を抱かなければならないんだろう」と。僕はそういう知識があまりなかったのですが、そのときいろいろと調べました。そして学んでいくうちに、これをどう表現しようかと考えて音楽を創ったんだと思います。
——書籍『BEYOND THE STORY ビヨンド・ザ・ストーリー:10-YEAR RECORD OF BTS』より
光州5.18民主化運動(以下、光州民主化運動)とは、全羅南道の道庁所在地だった光州市で起きた、大規模な反政府民主化運動のこと。軍隊の武力鎮圧により多数の死傷者が出た、韓国現代史の最大の悲劇のひとつであり、長く軍事政権が続いていた韓国が民主化へと向かう転換点となった出来事です。ソン・ガンホ主演の映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』にも、戒厳軍に立ち向かう民衆の姿や言論統制など、当時の光州の状況が詳しく描かれています。
映画『タクシー運転手』と同じ緑色のタクシーに乗って、1980年の光州にタイムスリップ!
J-HOPEの「Chicken Noodle Soup (feat. Becky G)」にも登場する光州のメインストリート錦南路。光州民主化運動がくり広げられた韓国現代史の現場として、ユネスコによって「人権民主主義の道」に認定されています。その一角に建っているのが、5.18民主化運動記録館です。
入り口には資料室があり、日本語で書かれた「5.18民主化運動」という冊子も無料で配布されています(読み応えあり!)。資料室の方が、「ぜひ見てほしい展示があります」と案内してくれたのが、地下の「5.18光州タイムトラベル」と表示されたゾーン。そこには、映画『タクシー運転手』と同じ緑色のタクシーが。
VR用のヘッドセットを着けると、一気に1980年の光州にタイムスリップ。目の前には、行進する民衆やおにぎりを配って助け合う人々……などがリアルに映し出されます。
また、建物内には、当時の写真や手記、検閲された新聞など貴重な資料の数々が。世界の民主化運動の歴史についての展示もあり、民主主義や人権について多角的に学ぶことができます。
光州民主化運動のさなかに打ち込まれた銃弾の跡。銃撃時の様子をアニメやVR等で再現
全日ビル245 光州市東区錦南路245
当時の生々しい痕跡がそのまま保存されているのが、「全日ビル245」です。245とは、光州民主化運動のさなかに、このビルに向かって戒厳軍のヘリコプターが撃ちこんだ銃弾の跡の数です。
2020年から、ビルの8階~10階を「5.18記念空間」として、無料で開放しています。実は1980年当時から「地元の放送局があったこの場所にヘリコプターが無差別に銃を撃った」という主張がありましたが、銃弾跡が国立科学捜査研究院によって確認され、事実として国に認められたのは2017年のことでした。
「5.18記念空間」では銃撃されたときの全日ビル内の様子をアニメやVRなどさまざまな展示で再現。民主化運動を知り、考える場所となっています。
屋上からは、映画『タクシー運転手』にも登場する光州民主化運動最後の抗戦地旧全羅南道庁と広場、そして民衆が行進した錦南路が見えました。
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