世の中で起こっていることは、自分と切り離すことなんてできないんです

主演していた大河ドラマ『おんな城主 直虎』撮影の只中だった2016年に事務所から独立、自身がCEOを務める会社「レトロワグラース」を設立した柴咲さん。40代を前に「年齢とともに衰えていくものや、見た目の変化もある中で、この働き方をずっと続けていけるのか?」という疑問があったのも確かですが、それ以上に感じていたのは、俳優業に対する「物足りなさ」だったと言います。

柴咲:今まで俳優業で引っ張ってきたというか、「職業は?」と聞かれれば、やっぱり「そうですね、俳優ですかね」という感じで、ずっと来たところはあります。でも自分自身が何かのエキスパートだったり、特別な技能があったりするわけでもない中で、そういう部分になんとなく物足りなさを覚えるようになっていたんです。俳優業が物足りないというと少し違うかもしれません。俳優という仕事において満たされてはいたけれども……というか。それを変えてゆきたいという思いは、会社立ち上げからどんどん膨らんでいます。

柴咲コウ「クスッと笑っちゃうような滑稽さが人間のリアル」挑戦し続ける原動力は知らないことを学ぶ姿勢_img0
 

自称「なんでもやってみたがり」の柴咲さん。「ふき活」にハマっているという冒頭の話ではないけれど、普通の生活の中にもある様々な喜びや楽しさは、彼女の人生ですごく大事なことだと語ります。

柴咲:生きる喜びや豊かさ、楽しさという感覚は、生きがいにも繋がるとても重要なことだと思っているし、食べること、眠ること、働くこと、遊ぶこと……その幸福をきちんと経験してみないと提唱もできない。だからまずはリスクを犯してでも、そういったことに関わる「モノづくり」をしてみたかったんです。結局のところ、私は何かを作ることが好きなんです。そこに自分の身体性を活用できるのであれば俳優として関わらせてもらうけれど、今はそれだけではなく、様々な手法やスタッフとの連携などでできあがっていく形の「モノづくり」の配分が増えているのかなと。今は俳優業以外が増えていますが、5年、10年、20年とたてば、また逆転することもあるかもしれないとは思います。


そんな彼女の会社のモノづくりが、「衣食住」をテーマにしたファッションブランドの立ち上げから始まったのは当然のことかもしれません。そこにあるリサイクル素材の利用やオーガニックへのこだわりは、昨今の彼女が日常の中で感じてきた環境問題への危機感、目指す「幸せな日常」の形、「モノづくり」の根本にある原動力とつながっているようです。


柴咲:公の政策と、個人の意識って分断してしまっているところがあります。いわゆる民意ーー一人一人の社会に対するモチベーションや、「これがこれからの常識でしょ」という考えは、確実に世の中を変えていく力になる。でもそういうものって日々の行動、考え方、学びによって作られていくものだから、大人にも学んでもらわないといけないなと思っていて。つい知ったかぶりしてしまうけれど、世の中には全然知らないことってたくさんある。生活にまつわることを始め、社会貢献や社会環境、自然環境にしても。そういう「知らないこと」をちょっとずつ潰していきたい。そのうえで、様々な視線を持とうと意識することが大事だなと。どこからどういう情報を仕入れるかによって物事の判断や感覚は異なるし、「宇宙が生まれてから数億年」という単位で見るのか、「人間が活動してきたここ数百年」という単位で見るのかによって、見え方も全然変わってくる。「何が正解か?」ではなくて、みんなで「いやでもこうなんじゃない?」「いやそうじゃなくて、こういうこともあるんじゃない?」というような、意見交換ができるくらいにはなってほしいな、と。そういう思いが私の「モノづくり」の原動力なんです。


本当に身近な問題であると同時に、あまりに大きすぎる問題。知れば知るほど、考えれば考えるほど、「解決策なんてないんじゃないか」と暗澹たる気持ちになってしまう人も多い問題です。でも柴咲さんは「全然迷いません」と、きっぱりとした笑顔で答えます。

柴咲:定食Aと定食Bで迷ったりすることはあるんですよ、どっちも美味しいなあ、って(笑)。でもそういうこと以外では、ぜんぜん迷わないんです。動き出そうかな……と思った時点で、これ! と決めちゃう。あんまり頭でっかちになっちゃうと苦しくなってしまって、放棄したくなる。それはもったいないし、結局のところ世の中で起こっていることは、自分と切り離すことなんてできないんです。世の中を変えてゆきたい。そこは諦められないし、そういう自分、そういう一個人でありたいと思っています。
 

 

<INFORMATION>
映画「蛇の道」
6月14日(金)全国劇場公開

柴咲コウ「クスッと笑っちゃうような滑稽さが人間のリアル」挑戦し続ける原動力は知らないことを学ぶ姿勢_img1
 

監督:黒沢 清×主演:柴咲コウ
時と国境を越えて辿り着く、完全版“リベンジ・サスペンス”

8歳の愛娘を何者かに殺されたアルベール・バシュレは、偶然出会ったパリで働く日本人の心療内科医・新島小夜子の協力を得ながら、犯人探しに没頭。復讐心を募らせていく。だが、事件に絡む元財団の関係者たちを拉致監禁し、彼らの口から重要な情報を手に入れたアルベールの前に、やがて思いもよらぬ恐ろしい真実が立ち上がってきて……。

果たして、アルベールの娘マリーは、誰に、なぜ殺されたのか。事件の思いがけない首謀者とは─。国境を越えた“徹底的復讐劇”の先に待つ真実とは──

監督・脚本:黒沢清
原案:『蛇の道』(1998年大映作品)

製 作:CINEFRANCE STUDIOS KADOKAWA
製作国:フランス 日本 ベルギー ルクセンブルク/113分
配給:KADOKAWA
© 2024 CINÉFRANCE STUDIOS – KADOKAWA CORPORATION – TARANTULA


衣装問い合わせ先/
Bottega Veneta Japan tel. 0210-60-1966
メシカジャパン tel. 03-5946-8299

 

撮影/榊原裕一
ヘア&メイク/川添カユミ
スタイリスト/柴田 圭(tsujimanagement)
取材・文/渥美志保
構成/坂口彩
 

柴咲コウ「クスッと笑っちゃうような滑稽さが人間のリアル」挑戦し続ける原動力は知らないことを学ぶ姿勢_img2