メイクアップアーティストとして数々のオリジナルメイクを打ち出し、国内外で何度もブームを巻き起こしてきたイガリシノブさん。コスメブランド「WHOMEE」のクリエイティブディレクターとしても手腕を発揮する傍ら、近年はシングルマザー支援やコスメロス(廃棄される化粧品)の削減を目指す活動にも注力。
自身の経験や知識を社会に還元する姿勢においても働く女性たちの注目を集める存在です。6月8日からは、初の個展「イガリシノブ展 ~人は街のあかりである~」をラフォーレミュージアム原宿で開催。来場者を楽しませる仕掛けが盛り込まれたポップな空間に、イガリさんが込めた願いとは? 

イガリシノブ「世の中の速さにコスメの売り手も買い手も追いついてない」ヘアメイク20年目の危機感から始めた意外な活動_img0
 

イガリシノブ
BEAUTRIUM所属。独自の発想と理論でトレンドをキャッチしながら紡ぐメイクが、「イガリメイク」として話題に。以降、雑誌などのほか、テレビなどでも精力的に活動。現在はコスメブランドWHOMEE、BABYMEEのディレクターとしての一面も。プライベートでは2児の母。

 

 


——まずは初の個展を開催することになったきっかけを教えてください。

イガリシノブさん(以下、イガリ):以前から私が個人的に抱いていた危機感が出発点になっています。コスメショップの売り場に行くと、店頭には同じようなメイクを施された女優やモデルの広告パネルがズラッと並んでいますよね。商品には「バズってる」というポップが添えられていて、売上ランキング上位の商品だけを集めたコーナーもあって、お客さんに「みんなと同じ物を買わなきゃヤバい」と思わせるような仕掛けばかり。これだけ多様性やジェンダーレスという言葉が多用されている時代なのに、売り手も買い手も追いついていない気がしちゃって……。

——結果、みんなが同じようなコスメを買って、街中が同じようなメイクをした人ばかりになる。そこに危機感を抱いたということでしょうか?

イガリ:大手企業が万人受けとトレンドを意識した使いやすいコスメを開発することは理解できますが、一方で国内にもメイクアップアーティストが唯一無二の哲学や美意識を反映させたブランドもたくさんあります。それぞれ理想とする顔が全然違うし、使いこなせば自分の新しい魅力に気づいて、みんなと同じアイテムでみんなと同じ顔を目指していた頃よりもメイクが楽しくなるかもしれない。私が手がける『WHOMEE』もそんな願いを込めて作っていますが、売り場で初めて商品を見るお客さんにはなかなか本質が伝わりにくい部分もあって。だったら、改めて自分の世界観を知ってもらう場を設けたいと思うようになりました。

——たとえ『WHOMEE』のファンであっても、今の若い世代はイガリさんのパーソナリティを詳しく知らない人もいそうですよね。

イガリ:そうですね。これまで『情熱大陸』や 『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演させていただいて、私の人間性が幅広い人に伝わった感覚があるのですが、今回は若い世代に向けて自分の頭の中を発信したい気持ちが強いです。でも講演会やトークショーのような形式にすると、昭和生まれの説教臭い感じになりそうだし(笑)。今回の『イガリシノブ展 ~人は街のあかりである~』は、これまでのメイクをビジュアルで展示するだけでなく、私が提案してきた骨格理論をベースに自分のチャームポイントを探してもらえるような体験型の展示も盛り込んでいます。買い物のついでに気軽にフラッと足を運んでいただきたいので、場所はラフォーレミュージアム原宿にしました。

イガリシノブ「世の中の速さにコスメの売り手も買い手も追いついてない」ヘアメイク20年目の危機感から始めた意外な活動_img1
 

——イガリさんの人生を紹介するコーナーもあるそうですが、七転八倒のアグレッシブな生き様を知って驚く人が多いのではないかと思います。

イガリ:まず、もともと私は剣道の特待生として高校に入ったスポーツ少女だったのですが、結局ファッションが好きで途中で選手を辞めているんです。それから、20代前半はバックパッカーをしていた時期もあって、催涙スプレーをかけられて荷物を奪われたこともあるし。失恋や離婚を経験してメンヘラになったこともあるし。たくさん遊んで、失敗して、傷ついたからこそ、どんどんタフになって、自分だけの表現を見つけてメイクアップアーティストとして生きてくることができました。その生き様を見て、少しでも刺激を受け取ってもらえたら嬉しいですね。

 
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