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【米倉涼子の新作映画レビュー】今こそ観たい、ナチスの迫害の実話『ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命』_img0
© _WILLOW ROAD FILMS LIMITED, BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2023

ナチスを題材にした映画はこれまでも観てきましたが、まだまだ知らない実話があるのだなと改めて感じた作品を紹介したいと思います。
『ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命』は、迫害を恐れてプラハへと逃げてきたユダヤ人の子供たちに手を差し伸べた青年、ニコラス・ウィントンの物語です。

 

 


第二次世界大戦開戦直前。ロンドンで株の仲買人をしているニコラスは、プラハで難民となっているユダヤ人の厳しい暮らしぶりを目にします。
せめて子供たちを寒さと飢えから救い、イギリスへと送ってあげたい。
そう思った彼は仲間を集め、ビザや保証金、里親を見つけ、子供たちをイギリスへと向かう列車に乗せる活動を始めます。

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© _WILLOW ROAD FILMS LIMITED, BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2023

観終わったとき、ただただ人を助けたいと思ったひとりの青年が、こんなにもすごいことを成し遂げたという事実に圧倒されて、言葉を失ってしまいました。
子供たちを助けるために、ナチスを相手に戦う勇気と原動力はどこから湧いてきたのか。
ニコラスが祖父母からユダヤの血をひいているからというだけでは説明ができないような、ものすごくスケールが大きな偉業だと思います。
でもニコラス本人はひたすらがむしゃらに行動をしただけだったのかもしれません。

ニコラスの若かりし頃と、年老いた現在を交錯させて物語は進んでいきます。
彼がどんな環境で育てられたのか少年時代のバックボーンは描かれていませんが、平和の大切さを主張するだけではなく、誰かを助けるために気がついたら体が動いている人が存在したことが、時代を感じさせる説得力のある映像で描かれています。
タイトルにも入っている6000は、子供たちを愛するがゆえに手放した親の思いや、受け入れる覚悟を決めた里親の思いも入っている数字だと、私は受け止めました。

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晩年のニコラスを演じたのは、アンソニー・ホプキンス。
いくつも代表作を持つ名優ですが、この映画のなかでは、助けてあげられなかった子供たちへの後悔を抱えたまま歳をとった、ひとりの老人として存在しています。
セリフが少ない役なのに、部屋を片付けて子供たち一人ひとりの写真が貼られたアルバムを手にするときの表情から、あらゆる想いが伝わってくる。そんなお芝居ができるのは、彼自身の老いが反映されているからなのか、演出によって引き出されたものもあるのか……。

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どちらにしてもアンソニー・ホプキンスの名演がじっくり味わえる作品であることは間違いありません。
ヘレナ・ボナム=カーターは強烈なキャラクターを演じることが多い俳優だと思いますが、今回の作品では息子の背中を押す母親を演じていて、彼女の存在もとても新鮮でした。

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実話に基づいて、『ザッツ・ライフ!』というBBCのTV番組の収録でニコラスに感謝を捧げる人たちとの再会が描かれています。
ニコラスにとってはきっと、あの再会こそが勲章だったのではないでしょうか。
こういう立派な人物がいたということを知るためにも、今、観るべき作品だと思います。

 

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<映画紹介>
『ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命』

1938年、第2次世界大戦直前。ナチスから逃れてきた大勢のユダヤ人難民が、プラハで住居も十分な食料もない悲惨な生活を送っているのを見たニコラス・ウィントンは、子供たちをイギリスに避難させようと、同志たちと里親探しと資金集めに奔走する。ナチスの侵攻が迫るなか、ニコラスたちは次々と子供たちを列車に乗せるが、遂に開戦の日が訪れてしまう。それから50年、ニコラスは救出できなかった子供たちのことが忘れられず、自分を責め続けていた。そんな彼にBBCからTV番組「ザッツ・ライフ!」の収録に参加してほしいと連絡が入る。そこでニコラスを待っていたのは、胸を締め付ける再会と、思いもよらない未来だった。  新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほかにて全国公開中。


取材・文/細谷美香
構成/片岡千晶(編集部)
 

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