米倉涼子さんが見た、最新のおすすめエンタメ情報をお届けします。

お芝居のことに関して話していると、戯曲を勉強して理論を語れる人が周りにはたくさんいるのに、私はいつまでも感覚の人間だなと思うことがあります。
ブランドに関しても似たようなところがあって、デザインが生まれた背景や歴史を調べる追求型ではないのかもしれません。

映画『アアルト』© Aalto Family

そんなことを思ったのはフィンランドの建築家でデザイナーのアルヴァ・アアルトのドキュメンタリー映画『アアルト』を観たから。
彼が創業したアルテック社の名前も知っていたのですが、アルヴァ・アアルトという人の人生や作ったものについては、映画を通して初めて触れることがたくさんありました。

© Aalto Family

映画のなかにはスツール60など彼が作った名作が登場するのですが、私の好みとぴったりだなと感じたのは曲線の美しさです。
私は家のなかでも落ち着きなく動いているので、ぶつかってもケガをしないように家具は四角よりも角のない丸いものが好き(笑)。
家では彼がデザインしたペンダント照明のビーハイブを愛用しています。

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© FI 2020 - Euphoria Film

自然光を感じさせる照明や波を打つようなうねりは、フィンランドの自然のなかから生まれたんだなという学びもありました。
長い建築家人生のなかで厳しい評価を受ける時代もあるけれど、自分を信じて仕事を続けたアルヴァ・アアルト。
見ること、感じること、興味を持ったことのすべてが建築家として生きることにつながっていたのだと思います。

© FI 2020 - Euphoria Film

最後まで現役であり続け、映画にも登場する図書館やサナトリウムなど生涯で200もの建物を設計したのは本当にすごいこと! 
建築が街の景観に与える影響の大きさを考えると、建築家って偉大な仕事ですよね。
この映画からは、彼を支えたいと周りの人たちに思わせる魅力的な人柄も伝わってきます。
デザイナーとしての自分のエゴや感性と数学的な考え方のバランスをどう取っているのか。発想力と計算の両立について、隈研吾さんのような建築家の方にいつか聞いてみたくなりました。

© FI 2020 - Euphoria Film

アアルトはもちろんのこと、北欧の建築やデザインに興味のある方におすすめしたいドキュメンタリーであると同時に、この映画は夫婦についてのラブストーリーでもあります。
アルヴァ・アアルトの最初の妻であり、建築家、デザイナーでもあったアイノ・アアルトとの手紙のやりとりが紹介されていて、その内容がとても素敵なんです。

© Aalto Family

アルヴァが浮気をしていたと思われるやり取りもあるのですが、正直に褒めあって、傷つけあって、ふたりだけの関係性のなかから絆とアートが生まれたんだな、と。
写真に手紙を読むナレーションが重ねられていて、思い出のフィルムを見るような感覚でも楽しめる作品です。

 
 

<映画紹介>
映画『アアルト』

フィンランドの建築家・デザイナー、アルヴァ・アアルトの人生と彼の作品を巡るドキュメンタリー、そして、アルヴァと同じく建築家であった最初の妻アイノとの愛の物語を描いた作品。フィンランドの街なかに溶け込む美しい建築物の数々、そして世界を舞台にアイディアを形にしていく過程を、観るものに示していく。同時に、アアルト自身の濃密な人生をも映し出す。妻アイノの早すぎる死、そして新たな出会い。近代建築の大きな流れと一人の人間としての生き様を織り交ぜながら描く、建築家の真の姿とは。ヒューマントラストシネマ有楽町、UPLINK吉祥寺、シネ・リーブル梅田、伏見ミリオン座 他全国公開中。


取材・文/細谷美香
構成/片岡千晶(編集部)

 

 

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