大人になっていく寅子と、立ち止まり続けるよね
そして、もう一人、不完全なキャラクターがよねです。寅子と再会を果たしたものの、頑なに寅子を拒み続けるよね。そこには、妊娠したことも知らされず、目の前であっさり(と、よねには見える)弁護士の仕事を辞めた寅子に対し、「置いていかれた」傷が見え隠れします。最愛の姉にある日突然「置いていかれた」よねは、親しい誰かがいなくなることに強いトラウマがある。その心情もよくわかります。
ただし、妊娠というのは極めてプライベートな事情であり、誰にどのタイミングで打ち明けるかは本人の自由。ましてや、あのときの妊娠発覚は実質的なアウティングでした。だから、寅子を責めるのはお門違い。おそらくよねの怒りには、頼りにしてもらえなかった自分自身への苛立ちが多分に含まれているのでしょうが、それを寅子に向けるのもまた八つ当たりでしかないのです。
様々な理不尽に苦しんだ生い立ちから、大人や男性に対して激しい敵意を持ち続けているよね。その潔癖さは美徳である一方、彼女もすでに30代。鼻っ柱の強さや強情さがチャームポイントとして愛された学生ではないのです。
ある意味、今も道男と同じ暗がりで立ち止まり続けているのがよねという人間なのでしょう。「今、顔を合わせた相手をおっさん呼ばわりするやつに名乗る名はない」と多岐川に言われた通り、社会性に欠けるところがあり、彼女が高等試験に合格しないのは、決して男装だけが理由ではないことがなんとなく窺い知れるようになってきました。
では、ここからよねはどう成長していくのか。裁判官となった寅子は「はて?」を取り戻したものの、学生の頃のほど「はて?」を連発しなくはなりました。寅子なりのスピードで大人になっているのです。よねもまた拳を振り上げるだけが戦いではないということを知っていくのか。あるいは、かつて寅子が「よねさんは、そのまま嫌な感じでいいから」と言ったように、自分を貫き通すのか。
『虎に翼』にこんなにも夢中になれるのは、未熟で、浅慮で、失敗をし、誰かを傷つけ、そのたびにもがく寅子やよねの不完全さに心が動かされるからかもしれません。
NHK 連続テレビ小説『虎に翼』
出演:伊藤沙莉
石田ゆり子 岡部たかし 仲野太賀 森田望智 上川周作
土居志央梨 桜井ユキ 平岩 紙 ハ・ヨンス 岩田剛典 戸塚純貴
松山ケンイチ 小林 薫
作:吉田恵里香
音楽:森優太
主題歌「さよーならまたいつか!」米津玄師
語り:尾野真千子
【放送予定】
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
※NHK+で1週間見逃し配信あり
文/横川良明
構成/山崎 恵
前回記事「『虎に翼』の優三に感じる「日曜劇場の妻」み。“主人公全肯定のケア要員”的ポジションを、このドラマはどう乗り越えるか【第9•10週レビュー】」>>
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