2024年春ドラマのなかで、No.1の名作だと言う人が多い『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系/以下、『アンメット』)。熱狂を呼んだいちばんの理由は、さまざまな場所に向けた“リスペクト”があったから……? というわけで、本稿では『アンメット』が成功をおさめた理由をたっぷり考察していきたいと思います。
① 原作へのリスペクト
脳の病気というのは、後遺症がつきもの。そのため、脳外科を舞台とした『アンメット』には、状態が劇的に改善したりするような、いわゆるドラマ映えする奇跡的な展開は起こりません。どの患者も、みんな何らかの後遺症を抱えながら、退院していく。第6話では、三瓶先生(若葉竜也)が「できた影に光を当てても、また新しく影ができて、満たされない人が生まれてしまう」と言っていた場面がありました。
これこそが、原作者の子鹿ゆずるさんと漫画担当の大槻閑人さんが大切にしてきたもの。直訳すると、“満たされない”という意味を持つアンメット。みんな、どこかで満たされない想いを抱えていて、それでもどうにか生きている。生きていかなければならない。今の社会は、光が当たるところに目が行きがちで、その後ろにできた影にはなかなか目を向けてもらえません。影の側に分類された人たちは、社会の隅に追いやられてしまう可能性もあります。
だったら、どうすればその影を消すことができるのか。まずは、できた影に気づけるような人にならなければ……なんてことを、『アンメット』を観ていると考えさせられました。
原作漫画とドラマで、受け手に伝えたいメッセージの“核”が一致しているからこそ、主人公が変わったとしても(原作漫画では、三瓶先生が主人公です)、世界観を壊さずに描くことができたのだと思います。これは、ドラマの製作陣が原作にリスペクトを持っていたからこそ。
② 作り手同士のリスペクト
とくに、強い信頼関係を感じたのが、ミヤビ役の杉咲花さんと三瓶役の若葉竜也さん。このおふたりは、朝ドラ『おちょやん』(NHK総合)、『杉咲花の撮休』(WOWOW)、『市子』(2023年)、そして『アンメット』と四度目の共演というだけあって、本当に息がピッタリだった。とくに、第9話の長回しのシーンは印象に残っている人も多いのではないでしょうか。
あの10分間は、「これって、どこからどこまで台本があるの……?」と思ってしまうくらいに自然で。まるでドキュメンタリーを観ているような気分になりました。さらに、放送後に「三瓶先生は、わたしのことを灯してくれました」というミヤビの台詞が杉咲さんによるアドリブだと知ったときは、「このドラマ、ヤバすぎるぞ」と。あの長回しの終盤に、アドリブを入れ込んでも大丈夫と思えるほど、おふたりの間に信頼関係とリスペクトがあるってことですもんね。また観返したくなってきました……。
キャスト陣はもちろん、スタッフのみなさんの“作品をいいものにするぞ”という熱い想いが伝わってきたのも『アンメット』の魅力のひとつ。原作者、監督、カメラマン、照明部、録音部……とお互いがお互いの仕事をリスペクトし合い、より良いドラマを届けるために奮闘していたからこそ、こんな名作が誕生したのだろうなと思います。
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