ダウン症とは何でしょう?


本書には、「ダウン症って何でしょうね?」と、ダウン症児を持つママ同士で考え込むシーンがあります。それはもちろん、染色体が通常よりも1本多いこと、といった基礎的なものではなく、もっと違う本質的な何か——。言葉という形にしようにも、うまく形にできない問いかけでした。

無邪気に遊ぶ子供達を見ながら、ダウン症児のママがふと、「ダウン症って何なんですかね?」と静かにつぶやく。ガードナーさんも、「ダウン症って何なんでしょうね?」と返事をする。この時の気持ちを、ガードナーさんはこんなふうに伝えます。

「この質問にはオウム返ししか言葉がないのだ。なぜなら、これは私もよく思う疑問だったから。(中略)オウム返しした私の返答に、その男の子のママは大きく頷きながら、また目を細くして子供達を眺めていた。私達は同じところにいた。同じ愛すべき疑問を持ち、彼らに特別な感動をもらい経験をさせてもらえていることに感謝している」

 

嫌いな言葉は「ダウンちゃん」
 


本書の中でひときわ印象に残ったのが、ガードナーさんが「嫌いな言葉」をあげているパートです。嫌いな言葉とはずばり、「ダウンちゃん」。
ガードナーさんは、「ダウンちゃん」というこの悪意のない言葉が持つ差別意識について、こんなふうに指摘します。

「ダウンちゃん。ダウンちゃん達、ダウンちゃんは、ダウンちゃんだから……。逆に考えてみるとダウン症のコミュニティー外の人は使わないんじゃないかな? ダウン症のある本人も使わないのでは? 本人が使っていたら、私はもっと悲しくなる。スラングのような言葉。(中略)私はなぜこの言葉を日本人は軽く使うのかわからない。私はこの言葉は差別用語だと思う。第一印象、見下した言葉だなと思うし、その言葉を聞いたり読んだりすると私は不快に感じる。あなたはどうだろう? いや、ダウンちゃんは親近感を込めた呼び方なのよとあなたがもし思うなら、他の先天的症状や病名にも『ちゃん』をつけて呼んでみたらいいじゃない? 脳腫瘍ちゃん、癌ちゃん、麻痺ちゃん、認知ちゃん。相手やその家族を実はバカにしていると相手に誤解されてもおかしくない呼び方であることにお気付きいただけただろうか?」