猫耳にTシャツ、世界観もめちゃくちゃ。辻褄は合わないけど自由でたのしい
『化け猫あんずちゃん』は、父親の実家のお寺に預けられた11歳のかりんちゃんが、その寺の飼い猫である「あんずちゃん」と出会い、成長するひと夏のお話を、脱力系のユーモアで描いたアニメーションです。思春期の女の子と猫ーーというと、なんだかふんわりした普通の話に思えますが、ミソはこの「あんずちゃん」が化け猫であること。ふたりはかりんちゃんの死んだ母親・柚季に会うために、その田舎町に住む(ちょっと間の抜けた)妖怪たちの手を借りて、地獄へと向かいます。
市川実和子さん(以下、市川):いわゆる「普通」の役をいただくと戸惑います。ずっと見た目が個性的と言われてきたせいか、そんな私でいいのかな? と。でもみんな王道の作品を好むのかなあ。私は真っ直ぐなものを真っすぐに見る、というのができないところがあって。自分から王道みたいなものを避けてるとかではないんですが、たぶん「折り紙を綺麗に折る」みたいなことができない感じが、身体から滲み出ちゃってるんだと思います。ただ今回は役柄に惹かれたというよりも、あんずちゃんの世界観が好きで。最初に脚本を読んだ時は「めちゃくちゃな話だな」と思ったんですが(笑)、湿っぽさもぜんぜんないし、優等生の脚本のようにきれいにまとめようともしてない、自由さがあって、「口が悪くて可愛いな、楽しいな、やりたいな」と思いました。
子猫の時に拾われたあんずちゃんは、かりんちゃんの祖父である“おしょーさん”に大切に育てられ、いつしか人の言葉を話し、人間と同じように暮らす「化け猫」に。パチンコと立ち読みが趣味で、原付バイクで按摩のバイトに行く、その風情は37歳のおっさんです。今回の作品が独特なのは、撮影した実写映像からアニメを描き起こす「ロトスコープ」という手法でつくられていること。あんずちゃんのぼやーんと所在ない立ち姿も、のそのそと木に登る様子も、身体全体でのんびり笑う様も、あんずちゃん役の森山未來さんが演じています。
市川:すごく印象に残っているのは、あんずちゃんが常に「にゃっはっは」と笑っているところ。あんずちゃんはただのおじさんなんだけど品があるんですよね。舞台などで見ている未來くんと同じで、声にも彼の人間味がにじみ出ている気がして、あらためて未來くんってすごいなと思いました。現場も独特で、猫耳にTシャツ姿で演じていた未來くんを始め、妖怪を演じる人たちは目印みたいに役柄の扮装をしていたんですよね。私が出るシーンは鬼もいるし閻魔大王もいる、特にめちゃくちゃな場面なんですけれど、本番なのにみんな舞台稽古中みたいな衣装で、メイクもなし。普通とは違う撮影でしたけれど、特に難しさは感じませんでした。だって、宝くじの一等賞金で買ったランボルギーニに乗って登場する“大妖怪かえるちゃん”とかでてきたりするんですよ(笑)。そもそもの世界観がめちゃくちゃなんだから、あえて辻褄を合わせないほうが自由度が広がるだろうなと。柚季は夫の借金に苦しめられた挙げ句に病気で死んだ人ですが、そこはあんまり深く考えると心が苦しくなりそうだったので、現場にはスイッチを切って入りました。そのくらいのほうが軽やかに「あんずちゃん」の世界に入れるんじゃないかなと。
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