猫と一緒に暮らす人にとっては、家族のように大事にしている猫と1日でも長く暮らせるのは幸せなことです。その一方で、猫も飼い主も年齢を重ねていくことになります。
それでも、猫とともに暮らしてきた時間はかけがえのないものですし、シニアになった猫だからこそ、愛着もひとしおです。そこでミモレでは、シニア猫(ここでは10歳以上と定義)と暮らす人たちのお話に耳を傾けてみようと思っています。
最終回に登場するのは、17歳と15歳のメインクーン男子と暮らす行政書士のFさん。猫飼い歴26年というベテランです。自分の責任で初めて猫を飼ったのは1998年のこと。ペットショップで売れ残っていたメインクーンを迎え入れたのですが、性格は温和で、Fさんによく甘え、とにかくよくできた猫だったといいます。しかし、その猫は8歳の時に、悪性リンパ腫でこの世を去ってしまうことに。
「もっとこうすればよかった」と後悔がつのり、ペットロスに陥ったFさん。その後、紆余曲折あって再び猫を迎え入れますが、今度こそ、猫たちをきちんと世話したいとペットシッターの資格を取ることに。また、2022年からは猫を亡くした人同士で語り合う場を主宰。さらには行政書士のスキルを生かして、ペット信託やペットに関する遺言書、見守り契約などの作成相談なども行っています。
そんなFさんに、猫との人生を振り返ってもらうと同時に、シニア猫との付き合い方や、いつか来る別れについてお話をお伺いしました。
<飼い主プロフィール>
Fさん(50代)行政書士、キャットシッター、「うつせみ猫語り会」主宰。1998年に生後4ヶ月半で売れ残りだったメインクーンの泰蔵(たいぞう)を迎え入れる。8歳の時に悪性リンパ腫で泰蔵を見送った後、ペットロスに。2007年にメインクーンの兄弟である忠相(ただすけ)と平蔵(へいぞう)を、2009年にメインクーンの影元(かげもと)を迎え入れる。2020年に平蔵も悪性リンパ腫にかかってこの世を去り、現在は忠相、影元と共に暮らす。
<同居猫プロフィール>
忠相(17歳)メインクーンで、クラシックブラウンタビーのオス猫。2007年生まれ。ショーに出場する予定で、ブリーダー宅で飼われていたが、生後7ヶ月半の時に、「2匹まとめて1匹分」の値段で平蔵とともにFさんの元へ。性格は明るくてお人好し。平蔵が亡くなった後、ご飯を食べなくなりやせてしまう。年齢的にも全身麻酔で検査するリスクが大きいため、体調を崩した時だけ薬を飲んでいる。
影元(15歳)メインクーンで、クラシックブラウンタビーのオス猫。2009年に忠相、平蔵と同じブリーダー宅で生まれる。生まれた当初から耳に肉芽腫があり、売り物ではなかったが、Fさんと目が合ってしまったことから、「半額からさらに20%ディスカウント」でFさんの元へ。肉芽腫の治療に半年以上かかった上に、心室中隔欠損症であることが判明。寿命は8歳までと宣告されるものの、立派なシニア猫に。空気を読まないタイプで、よく平蔵に鉄拳制裁を受けていた。
<歴代猫プロフィール>
泰蔵(8歳没)メインクーンで、クラシックブラウンタビーのオス猫。生後4ヶ月半だったが、大柄なメインクーンゆえに子猫とは思えない大きさになっていたため、ペットショップで売れ残っていたところをFさんに迎え入れられる。性格は温厚で甘えん坊。健康そのものだったが、8歳で悪性リンパ腫が判明し、2005年にこの世を去る。
平蔵(13歳没)メインクーンで、クラシックブラウンタビーのオス猫。2007年生まれで、兄弟猫の忠相とともに、Fさんの元へ。性格は威張りんぼうで猫には厳しく、Fさんへの独占欲強め。毎年の健康診断で「健康優良児!」と太鼓判を押されるほどだったが、12歳の検診から2ヶ月後に悪性リンパ腫が判明。2020年にこの世を去る。
今から26年前、私は初めて猫を迎え入れることを決めました。はじめは猫の保護団体に当たったのですが、一人暮らしだったので悲しいほどの塩対応……。そんな時、ペットショップで売れ残っていたメインクーンのオス猫に出会います。生後4ヶ月半ですが、大柄な猫種なのでかなり大きくなっていたのです。私は寝相が悪く、むしろ大きい猫がよかったので、この子を迎えることに。名前は泰蔵にしました。
泰蔵は健康そのもので性格もよく、甘えん坊。私が嫌がることは絶対にしませんでした。でも、8歳の時に珍しく下痢をして、頻繁に水泡を吐くようになったため、動物病院で検査をしてもらうことに。そこで悪性リンパ腫ということがわかりました。腫瘍摘出手術のあと、抗がん剤治療を行いました。
一時は奇跡の回復を遂げ、やっぱり泰蔵はえらい、きっと大丈夫と信じていて、泰蔵も頑張ってくれたのですが、その願いは叶うことなく息を引き取ってしまいました。泰蔵は私が初めて飼った猫。非の打ち所がなく、大好きだっただけに、本当に落ち込みました。もう二度と猫を飼うまいと思っていたのですが、約1年後、メインクーン懐かしさに、通勤途中にあったメインクーンのブリーダーさんのところに立ち寄ってしまいました。
その時は、ただメインクーンと触れ合いたかっただけなのですが、ブリーダーさんご夫妻の奥さんがとても押しの強い方で、ブリーダーさんがペットショー出場のために売り物にしていなかった生後7ヶ月半のオスの兄弟猫を私に引き合わせ、「今なら2匹で1匹分の値段でいいわよ!」と言いました。2匹の猫たちを初めて見た時、なぜだかこの子たちと一緒に暮らすんだろうなぁと思いました。そして、再び猫を受け入れることに決めたのです。この子たちが忠相と平蔵です。
彼らを受け入れた後、このブリーダーさんから猫を譲り受けたオーナーさんの集まりが時々あって、私も参加していました。ある時、耳に肉芽腫があるために販売できない子猫がいることを知りました。しばらくしてからも気になっていた私は、ブリーダーさんに「あの子はどうなったの?」と聞いたところ、「奥の部屋にいるよ」と案内してくれました。ケージに隔離されていた生後8ヶ月の子猫と目が合いました。一度そらして再度見たときにまた目が合ってしまい、その時に「よろしくな!」と言われている気がしたので、縁を感じて迎え入れることにしました。値段は半額になっていた上に、さらに20%オフとなったのですが、今から思えば医療費がかかりそうだったからかもしれません。この子が影元です。
影元は去勢手術と同時にレーザーで肉芽腫を焼き切る手術を受けましたが、消毒と経過観察で半年以上病院に通うことに。ようやく病院通いが終わりそう! というタイミングで、影元の心臓に穴が空いていることが発覚しました。心室中隔欠損症という病気です。当時、通っていた病院では「長くて8年。心臓疾患は苦しいので、症状が出たら安楽死しかない」と宣告されます。
私はその獣医師の言葉をそのまま受け入れられず、心臓疾患の症例を多く手がける大学病院にセカンドオピニオンを求めました。そこで再び精密検査をした結果、心室中隔欠損症の中でも軽症で、通常通りに生活して大丈夫だと太鼓判を押されてほっと安心できました。さらには、「この病気だと血流が悪いので栄養が体に行き届きにくく、なかなか太れないはず。でも、なぜかこの子はまるまると太っている。心臓に穴が空いていてこんなに太っている猫は見たことがない!」という別の意味での太鼓判も押されてしまいました(笑)。
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