新潟へと舞台を移した第16週でも、強者の戸惑いは続きます。女だてらに支部長だなんて、と逆風を覚悟して飛び込んだら、待っていたのは予想外の歓待。なぜなら、寅子がもうすでに強者だからです。判事という権力を持ち、しかも中央である東京から来た人間。地方の人々からすれば同じ人間だなんて思われていない。
だから、書記官の高瀬(望月歩)にも拒まれる。兄たちと違い戦争にも行けず、世の中が求める男らしさなどまるで持ち合わせていない高瀬は、この狭い町では常に見下される側。そんな人間の息苦しさなど、エリートコースをひた走る寅子になどわかるはずないと思われていた。娘の優未(竹澤咲子)はいつまで経っても「いい子」の仮面を外そうとしない。強者の寅子は完全に八方塞がりでした。
少し前の寅子なら、高瀬に対し、それでも弱音を吐ける場所になろうと躍起になっていたかもしれません。ですが、寅子とてみんなの弱音を吐ける場所になれるわけではない。生まれ育った環境も違えば立場も違う、ただの部下である高瀬とすべてを分かち合えるわけではない。
だから代わりに上司として、ちゃんと高瀬を評価した。あなたがいないと仕事が回らないと、日頃の丁寧な仕事ぶりを称え、高瀬は高瀬のままでいいのだと認めた。そして、町の有力者に怒りに任せて手を出したことに対して、然るべき処分を与えた。かつて小橋(名村辰)にからかわれ、暴力で対抗した寅子が、「この仕事をしている以上、どんなにひどいことを言われても手を出してはダメ」と教えた。それは、大きな大きな成長でした。
思うに、寅子が子どもでいられたのは、穂高(小林薫)然り、桂場(松山ケンイチ)や多岐川(滝藤賢一)、久藤(沢村一樹)然り、周りに寅子を子どもでいさせてくれる大人がいたから。後ろ盾から離れることで、桂場の思惑通り、寅子は大人としての――言い換えれば強者としての正しい振る舞いを、この新潟で少しずつ身につけはじめているのでしょう。
一方、家族である優未とは、おいしいものを分かち合うことで、ほんの少しだけ溝を埋めた。
「嫌なことがあったら、またこうして二人で隠れて、ちょっと何かおいしいものを食べましょう」
あの日、優三(仲野太賀)が教えてくれたように。もし家族というものに何か意味があるとするならば、それは喜びを分かち合えることなのかもしれません。
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