相手も緊張し、怖がっていると意識しておく
ある著名な女優さんにインタビューしたときのこと。当時の私はライターになりたてで、インタビュー中はレコーダーで録音をする、ということさえも知りませんでした。ノートとペンを持って話を聞こうとすると、「え? レコーダーも持ってないの? 大丈夫?」と不審な顔。さらに、その雑誌のテーマに関しても「そんなこと考えたことないし」と、こちらに歩み寄ってくれる気配はありません。
よっぽど、もうインタビューを中止して切り上げようか、と思いましたが、「すみません。私、経験が浅いもので」と謝罪して、少しずつ身近なところから質問を重ねていくと、ポツポツと話をしてくれるようになりました。必死にメモを取ってまとめた原稿には、彼女からの修正はほとんど入らず、ほっとしたことを覚えています。
あれから30年近くの月日が経って、自分がインタビューをしてもらう立場になりました。そこでわかったのは、取材時に会う人への信頼感の大切さです。その日、初めて会う人に対して、「この人は、私のことをわかってくれるだろうか?」と不安を感じるのは当たり前。そんな状況下で、レコーダーを持っていなかったあのときの私は、相手の不安を、より増幅させてしまったというわけです。
でも、誠意を持って接して、「あなたのことをわかりたいと思っているんです」と伝え続けたら、少しずつ心を開いてくれました。インタビューのはじまりには、会話がぎこちなくなりがちです。それは、「この人は、心を開いて話すに値するかどうか」と相手が様子をうかがっているから。私も緊張するけれど、相手もきっと緊張し、怖がっていると意識しておくことは、とても役に立ちます。
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