ビール1缶なら、まったく飲まない人より認知症にならない?


一方で、適度な飲酒であれば、認知症リスクを下げる可能性を示すデータもあります。ある研究では、1日あたり缶ビールを1缶から2缶の間ぐらい飲む人は、まったく飲まない人よりも認知症リスクが低かったそうです(参考文献3)。 ただし、これには注意が必要で、「全く飲まない人」の中には、以前に大量飲酒をしていたものの健康上の問題で飲まなくなった人が含まれていた可能性があると指摘されています。このため、全く飲まない人のリスクが「高く見えてしまう」というわけです。

毎日の晩酌は缶ビール1本?2本?その差が将来の認知症の分かれ目に!韓国人400万人の飲酒量調査からわかったこと【山田悠史医師】_img0
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もう一つ興味深い研究(参考文献4)があります。韓国で行われたもので、同じアジア人での研究なので、日本人にも当てはめやすいかもしれません。この研究では、なんと400万人もの韓国人の中で飲酒量が評価され、飲酒が全くない人、1日あたりのアルコール摂取量が350mlの缶ビール相当で1缶以内、2缶以内、2缶を超える人たちに分類されています。また、追跡期間の中で、全く飲酒しなかった人、飲んでいたが途中で禁酒した人、量を減らした人、飲酒量に変化のない人、増やした人もカテゴリー分けをしています。

そして、それらのグループの中で、その後の認知症(特に、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症)の発症との関連があるかどうかを評価しました。

 

すると、様々な飲酒量、飲酒習慣の変化がある中で、飲酒を全くしない人と比較をした場合、継続して缶ビール2缶以内に抑えていた人では認知症発症リスクが低く見られたのに対し、缶ビール2缶を超える飲酒があった人では、認知症発症リスクが高かったのです。

次に、ずっと缶ビール2缶以上を飲んでいたけれど途中から2缶以内に減らした人は、2缶以上を継続して飲み続けた人よりも認知症リスクが低くなるという変化が見られました。逆に、飲酒を全くしていなかったけれど途中から1缶以内の飲酒を開始した人も、ずっと飲まなかった人と比べて認知症リスクが低下していました。一方で、飲酒量が増えた人や飲酒を途中でやめた人では認知症リスクが高まるという変化が見られました。


「お酒を飲まない人」は、「病気で飲めなくなった人」の可能性も

そう言われると、やはりお酒は少しでも飲んだ方がいいのかと早合点してしまいそうですが、「飲酒をやめた人」で認知症リスクが高まったのは、”sick quitter effect”と呼ばれる影響があったのではと捉えられています。すなわち、まるで飲酒をやめたことで認知症リスクが増えたように見えるものの、実は病気になり、飲酒ができなくなった人を多く見ているということです。このように、飲酒の全くない方が認知症リスクは高いというデータを見た場合には、飲酒ができない事情、すなわち病気の影響などを考慮する必要がありそうです。

これらの研究結果から言えることは、毎日の晩酌で缶ビールを2缶以上飲む習慣は、将来の認知症リスクを高める可能性があるということです。また、そのような習慣がある人でも、1缶に抑えることで、そのリスクを減らせる可能性があり、何なら全く飲まないよりも都合が良い可能性もなくはありません。

お酒と認知症の関係は、お風呂の湯加減のようなものだと考えていただくと良いかもしれません。冷たいお風呂を加熱していくとやがて快適な温度になりますが、熱すぎると逆に不快になってしまいます。お酒にも脳にとって快適な「適量」があり、その量を過ぎると脳へのストレスになるのです。