「ちょっとした工夫」を積み重ねる

目が見えなくても車椅子でも「メイクのわくわく感」は平等に。化粧品メーカーが気づいたコスメカウンターのバリア_img0
視覚障がいを持つ当事者の方にブラインドメイクをレクチャーする店舗実習のひとコマ。使用しているメイク用品を置くトレーと、手拭き用のシートを用意。(写真提供=OSAJI)

——まず、目が見えない方の視点に立って困りごとを探す必要があるんですね。

酒井:なので、メイク道具を乗せる「トレー」を用意することも大切です。メイクをするとき、普通はスキンケア用品やメイク道具を机の上に広げたり、ポーチの中からごそごそ探したりしながらメイクをすると思います。けれど、晴眼者ならば不便を感じないことでも、目が見えない方の場合はリップがコロコロと転がってしまうこともあります。

ブラインドメイクは、メイクする方自身の「指」を使って行うので、ティッシュで何度も指を拭きながらメイクをすることになります。ですから、「コスメを置いたり、手に取ったりすることが容易にできる」環境づくりの一つとして、メイクをする工程で今使っているアイテムが置けるトレーが必需品です。

目が見えなくても車椅子でも「メイクのわくわく感」は平等に。化粧品メーカーが気づいたコスメカウンターのバリア_img1
OSAJIのUBA向けに開催された講習会。全盲の山岸さんも、目の前にトレーを置いてメイクをしていました。(写真提供=OSAJI)

コスメ本体なのか、そのキャップなのかが手に取ったときにすぐわかるよう、キャップにはゴムをつける、なども店頭レベルで工夫できます。一歩ずつですが、お客様の反応を見ながら積み重ねていきたいですね。

 

「誰もが豊かな暮らしを送れること」を実現するために

——バリアフリーな売り場づくりに挑戦する意義はどんなところだと思いますか。

後藤:ブラインドメイクや接客を通して個人的に思うのは、障がいを持った方が必要としているのは、「誰もが豊かな暮らしを送れること」だと思うんですよね。普通の生活を営めること、それが幸せなのだと思います。だから、障がい者と健常者が区分けされない世の中になるためには、いろいろな壁を取り払う必要があるんじゃないかなと思っています。

——コスメは一つの入口かもしれないですけど、巡り巡って障がい者と健常者が同じ生活を共にできる社会が理想なんですね。

後藤:私自身は聴覚障がいの方を接客する機会が多いのですが、最近はスマホで打ち込んだ文字をすぐに音声変換する、スマホに吹き込んだ音声を瞬時に文字化してくれるアプリが進化していて、そうしたアプリを活用される方も増えました。聴覚障がいの方がAIなどの技術を活用することで、コミュニケーションの幅が広がっていることを感じます。

ただ、視覚障がいの方にとっては、そういった技術面のサポートが他の障がいの方よりも遅れているのではないか、と感じたりもします。だから、視覚障がいの方の普通の暮らしをサポートするテクノロジーも、他の障がいの方のように進化していったらいいなと思います。とはいえ、私自身も視覚障がいのお客様を接客する回数が少ないこともあり、なかなかレベルアップできない部分があります。