【心地いい家のつくり方】「選んで、捨てる」の実践を繰り返すことで、“好き”が定まっていく。〈ともさかりえ×行正り香対談〉vol.3_img0
 

料理家でインテリアデザイナーの行正り香さんと、俳優のともさかりえさんは、17年来の親交がある良きお友達。そんなおふたりのスペシャルな対談が、行正さんの著書『人生を変えるリノベーション』の刊行を祝して実現! 4回にわたってお届けする連載、第3回は、家づくりと「恋に落ちる瞬間」のお話です。
 

 

心地いい家づくりを叶える「選んで、捨てる」のプラクティス


ともさか 私、このところようやく“好き”が定まってきた気がします。すべてにおいていろんなタイプのものが好きなので、これまではインテリアも、ごちゃごちゃしがちだったんだけど。

行正 りえちゃんのセンスには、前々から素敵な統一感があるように私は思うけど、例えば、どういうこと?

ともさか 例えばね、り香ちゃんのお家で「PHアーティチョーク」(ポール・ヘニングセンがデザインしたペンダント照明)を見て、“素敵だなぁ”と思うでしょ? でも、それが自分のライフスタイルにフィットするかというと、“うちには違うかな”という選択ができるようになってきた。人が着ていて素敵に見えるお洋服も、自分が着ると違う……ということが、インテリアにもありますね。

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行正 りえちゃんは洋服をデザインしているから、その経験も大きいんじゃないかしら。

ともさか 洋服もインテリアも、デザインという意味では共通しているかもしれませんね。あと、コーディネートも?

行正 そうね、コーディネートすることって、要は、限られたもののなかからセレクトすることですよね。そして、何かをセレクトすることは、他を捨てることでもある。家のデザインもまったく同じ。「選んで、捨てる」のプラクティス(実践)を繰り返すことで、自分にとって心地のいい家づくりができていくから。そのプラクティスを、りえちゃんは重ねてきたんだと思いますよ。

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ともさか ひとつ選んで、他を捨てる……。そのなかで、自分自身や自分のライフスタイルにおいていちばんリラックスできる空間はどんなものかも、見えてくるんですね。

行正 人の家のインテリアだったり、お店のディスプレイなどで見ていいなと思ったものを、自分の部屋に実際に置くとどう見えるか、ということを見極められるようにもなってくるんじゃないかしら。

ともさか 憧れだけでは、うまくいかないですからね。「理想」と「現実」のバランスなのかな。私はそれがやっと、とれるようになってきたのかもしれません。


恋に落ちた1つの家具から始まる、リノベーション

行正 着る洋服はもちろん、人生そのものも、年齢を経ると変化していくじゃないですか。そのなかでね、「ああ、これが好き!」という衝撃的な出合いが必ずあると思う。選択を重ね、自分を磨き続けると、「これ!」とストンッとくる瞬間がやってくるんです。

ともさか すごくわかります。り香ちゃんのスタジオにあるオーバル形のテーブルも、「好き!」が始まりだったんですよね。

行正 そうなの。私ね、18歳ぐらいの頃から、カレン・ブリクセンというデンマーク人の小説家(*英語の筆名はイサク・ディーネセン)が大好きなんです。『アフリカの日々』を書いた人。

ともさか 映画『愛と哀しみの果て』の原作だって、教えてくれましたね。

行正 りえちゃんも、あの作品は好きだと思うな。ブリクセンの小説には、働く女性の凛々しい姿があって、最高にかっこいいんです。そのブリクセンが住んでいた家を見学したことがあるんだけど、そこで「私はこれが好きだ!」と瞬時に恋に落ちたのが、ローズウッド材のオーバル形テーブル。同じくデンマーク人の、オーレ・ヴァンシャーがデザインした家具でした。

ともさか スタジオのリノベーションをする際、ヒントになったと話してましたね。

行正 そうそう。まず、「ローズウッドの大きなオーバル形のテーブルを入れる」ということを決めたのよね。そこから、テーブルの色が赤みのあるものだから、銅のランプを入れたほうがいいな、カーペットはうっすらローズがかったグレーにして、テーブルの下のラグは赤系のものがいいな……と、自ずと決まっていきました。1つのポイントから、全部がつながっていって。りえちゃんも“恋に落ちるテーブル”に出合ったときに、リノベーションが始まると思う(笑)。

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ともさか 実はね、恋に落ちた椅子ならあるの。アンティークで見つけたものなんだけど、ピエール・ジャンヌレのイージーチェア。

行正 背もたれと座面が四角くて、籐が張ってある椅子ね。

ともさか その椅子に出合って、私は思っていたよりメンズライクなものが好きなんだなってわかったんです。普段「かわいい!」って惹かれるのはいろんなタイプのものなんだけど、自分の生活に取り入れたいのはこういうデザインなんだなって。

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行正 りえちゃんの好きなインテリアのスタイル、わかるわ。例えば、ほら、この写真はニューヨークのレストランで撮ったものなんだけど、この椅子に合うのは、こんなふうにモダンな空間で、装飾にはこういうモザイクがあって……。

ともさか うんうん! そんな感じ!


感性をオンに! 出合いは求めることでやってくる


行正 「これが好き!」というものは、食べるものでも音楽でも美術でも言葉でも何でも、一生懸命にアテンションをかけているからこそ出合えるのだと思います。感性の鋭い人でありたいと日々心がけているからこそ、好きなものと出合うチャンスが向こうから歩いてくる。ぼーっと過ごしていたら、恋に落ちる瞬間はやってきません。

ともさか 目の前にあっても、気づかないかもしれませんね。

行正 気づかないわね。人生のチャンスと同じだと思う。チャンスって、実は案外、誰しもに平等にやってきていて、それに気づくかどうかの違いなんじゃないかな。

ともさか 感性をオンにして、アンテナを鍛えておくことって大事ですよね。以前、撮影の現場である女優の大先輩がね、「このなかで、付き合うなら誰がいい?」って、すごくチャーミングにおっしゃったんです。私、びっくりしちゃって。“そんなこと考えていらしたなんて、なんて可愛いの!”と思った。その意識があるから、いつまでも可愛らしくていらっしゃるんじゃないかな。

行正 アテンションをかけていらっしゃるのね。恋に落ちる瞬間は、人間に対しても、モノに対しても同じなんです。しかも、突然やってくるものでしょ。旅をたくさんすることでも、予期せず「これが好き!」と思えるものに出合えると思う。出合いは求めていかないと。

ともさか 本当にそう思う。出歩かないとダメですね。

行正 旅して、歩いて、食べて、飲んで。動いて初めて「はぁ、落ちちゃった」という瞬間があるのよね。アマンリゾーツの創業者、エイドリアン・ゼッカーが手がけたホテルに行ったときにも、「これだ!」ってズドーンときたんだけど、調べてみたらゼッカーさんは伊豆の旅館などがお好きで、日本の照明器具に恋に落ちて、それを再現していることがわかった。動いたからこその発見でした。

ともさか そうやって「好き」を1つずつ見つけていけばいいんですね。

行正 そう、一遍にどんっと家具を揃えなくてもいいの。愛着のある椅子を1つ見つけたら、次はそれに合うテーブルを見つけるといった具合に、家は少しずつ完成していくんです。家って育てるものなんですよ。

ともさか 私も、家に置いて嬉しいと思える椅子と出合えたので、ここから育てていきたいです。
 

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ともさかりえ/俳優。東京都出身。12歳でデビュー。ドラマ「金田一少年の事件簿」シリーズ(日本テレビ)でブレイク後、映画、舞台、また歌手としてなど、活動の幅を広げる。近作は映画『四月になれば彼女は』など。放映中のドラマ「新宿野戦病院」(フジテレビ)にも出演。ファッションブランド「MY WEAKNESS」のディレクターとしての顔も。

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行正り香/ゆきまさりか 料理家・インテリアデザイナー。デンマーク親善大使に選ばれる(2017年)など、北欧のインテリアに造詣が深く、近年はインテリアのコーディネーターやリフォームプランナーとして多数の家作りに携わる。30冊を超える料理レシピ本のほか、家作りに関する著書『行正り香のインテリア』『行正り香の家作り』もロングセラーとなっている。
 


「残りの人生を、どう生きるか」を住まいから考える本

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行正り香『人生を変えるリノベーション』
2024年6月14日発売 
B5判型 オールカラー144ページ

・より広く明るく見える〈家具の配置〉とは?
・どこに影を作るか?〈照明プラン〉の考え方
・〈模様替え〉でも家は変わる
・理想を叶えるための〈予算設計〉の新しい考え方
・家は〈自分の個性〉を加えて完成する

機能とデザインとの両立、居心地のよさにプライオリティを置いた住まいとは? そして、残りの人生をどう生きるか? を住まいから考える本です。

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構成/八幡谷真弓
撮影/嶋田礼奈
ヘアメイク(ともさかさん)/伴まどか
 

 


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