まるで映画のワンシーンのような華麗なパレード、豪華な宮殿での晩餐会……。6月22日から29日にかけて、天皇陛下と雅子さまは英国に国賓として公式訪問をされました。お二人は英国王室や国民からのあたたかい歓迎を受け、式典や晩餐会へのご出席をはじめ、さまざまな施設に足を運び友好親善を深められました。英国のおもてなしはどのようなものだったのでしょう。皇室を長く担当し取材を重ねてきた毎日新聞客員編集委員でジャーナリストの大久保和夫さんに伺いました。

お二人揃って、ロンドンの空港に降り立ったことに意味がある


――政府専用機で羽田空港を出発された天皇陛下と雅子さまは、6月22日の現地時間午後、ロンドン北部のスタンステッド空港に到着されました。陛下の水色のネクタイと水色と白の装いの雅子さまは、さわやかなリンクコーデが印象的でした。

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2024年6月22日、ロンドン郊外の空港に到着された両陛下。写真:PA Images/アフロ

大久保さん:そうですね。お二人揃って空港に降り立ったということが、日本と英国の友好親善にとってとても意味のあることだったんです。お二人が若いころに別々に留学され多くの思い出をつくった国に、長い年月を経てお二人で立たれたということは、とても素晴らしいことでした。お二人の笑顔がそれを物語っていましたね。

――25日からは公式行事となりました。午前中にウィリアム皇太子がロンドンの宿舎にお迎えに来て、陛下と雅子さまは「ホース・ガーズ」に向かわれました。「ホース・ガーズ」は、近衛騎馬隊の司令官が本部にしている建物ですね。乗馬した騎兵が見られるので、ロンドンの観光スポットにもなっていますね。

 

41発の礼砲は最高の儀礼で迎えられた証し


大久保さん:はい。「ホース・ガーズ」の閲兵場でお二人はチャールズ国王とカミラ王妃とお会いし、歓迎式典に出席されました。

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写真:Eyevine/アフロ

式典では、君が代の演奏に続いて、砲兵隊による41発の礼砲が放たれました。41発の礼砲というのは、最高の儀礼で迎えられた証しなんですよ。

――日本でも、天皇陛下の即位の礼のときに礼砲(皇礼砲)がありました。

大久保さん:礼砲とは、敬意を表すための空砲です。ふつう、皇族に対して撃つのは21発なんです。今回はさらに20発増やしていますから、たいへんな敬意を表していることがわかります。おそらく、他の国を訪問しても、これ以上のもてなしはそう滅多にはないだろうというほど、最高のもてなしだったんですよ。

歓迎式典ののち、馬車でのパレードが行われました。先頭の馬車には天皇陛下とチャールズ国王が乗り、続いて雅子さまとカミラ王妃を乗せた馬車が、セントジェームズ公園沿いのバッキンガム宮殿につながる大通り「ザ・マル」をパレードされました。だいたい1キロメートルくらいの距離を、ゆっくりとオープンスタイルの馬車が進んだのです。

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オープンスタイルの馬車で、カミラ王妃とともにバッキンガム宮殿へ向かわれる雅子さま。写真:REX/アフロ


真っ白な装いで歓声にこたえる雅子さまとカミラ王妃


――日英の国旗が沿道を飾り、おおぜいの人々が集まり手を振っていましたね。シルクハットをかぶったチャールズ国王と談笑する陛下、まるで揃えたかのような白い装いの雅子さまとカミラ王妃が、笑顔で歓声にこたえていらっしゃいました。この豪華なパレードで王室と肩を並べていらっしゃる陛下と雅子さまのお姿に、なんだか誇らしい気持ちになりました。

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日英の国旗が沿道を飾った素晴らしく豪華なパレード。写真:ロイター/アフロ

大久保さん:お二人にとっても馬車でのパレードは感慨深かったようですよ。パレードは本当に素晴らしく、関係者のみなさんに感謝したい、とおっしゃっていたそうです。

平成の1998年に、上皇陛下(当時は天皇陛下)と美智子さまが国賓として訪英されたときには、私も取材で同行していましたが、「ザ・マル」のパレードは非常に華やかで見栄えがしますね。

しかし、振り返れば1971年に昭和天皇と香淳皇后が国賓として訪英されたときには、パレードの最中に昭和天皇の乗った車にものが投げられるといったことがありました。第二次世界大戦のアジア各国での日本軍の行いに対する抗議でした。

上皇陛下と美智子さまの公式訪問の際には、元英軍兵士たちが、お二人の馬車が通る直前に後ろ向きになって背中を見せて、抗議の意思を表しました。

そういった、戦争の影を引きずっていた中で訪英したこともあったのです。でも、今回の陛下と雅子さまの訪問では、まったくそういったことはなく、歓迎ムード一色でした。

――そんな歓迎の気持ちが、屋根のない馬車に表れていたのかもしれませんね。成熟した両国関係を象徴する光景で、日本と英国がともに華やかな雰囲気に包まれた素晴らしいご訪問でした。


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●大久保和夫(おおくぼ・かずお)
毎日新聞客員編集委員。長年、宮内庁担当記者を続け、皇室を通して日本と日本人について考えることを大きなテーマにしながら、ジャーナリストとして活動している。


●聞き手
高木香織(たかぎ・かおり)

出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さま あの日あのとき』、『日めくり31日カレンダー 永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。

キャプションは過去の資料をあたり、敬称・名称・地名・施設名・大会名・催し物名など、その当時のものを使用しています。
 

バナー写真/JMPA
構成・文/高木香織
編集/立原由華里


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