つまり、喫煙は脳内にさまざまな「ゴミ」を蓄積させ、さらには十分な血液と酸素の供給を妨げることで脳にダメージを与え、認知症のリスクを高めます。タバコを吸うことは、脳という大切な自宅に、わざわざゴミを溜め込み、水道水の供給を止めるような行為であると捉えてもいいかもしれません。それが、自宅の機能を麻痺させるのです。

しかし、だからと言って今喫煙をしている人が「そんなことならもう気にせず吸い続けてやる」と自暴自棄になる必要はないでしょう。なぜなら、喫煙をやめることで、認知症リスクを低減できる可能性が示唆されているからです。韓国の全国規模の研究では、2年間の間に禁煙に成功した人は喫煙を続けた人と比較して、その後約6年間で見られた認知症の発症リスクが低いことが報告されています(参考文献5)


禁煙は若いときにきっぱりと、がいちばん


また、特にこの研究の結果で特筆すべきことが2つあります。ひとつは、禁煙のタイミングが65歳未満の人でこそ、認知症リスクを減らす効果が顕著にみられたということです。
逆に、65歳以上での禁煙では、そこまで大きな変化が見られていませんでした。もうひとつは、発症リスクが減ってみられたのは、あくまで完全に禁煙ができた人だけだったということです。完全な禁煙ではなく、吸う量を減らしているだけの人では、5割以上本数を減らした人でも、認知症リスクは減っていませんでした。このため、本当に大切なのは「禁煙」であり、「減煙」では意味がないと結論づけられています。
こうした知見はイギリスなど他の国からも繰り返し報告されています(参考文献6)

「祖父はヘビースモーカーだったけど認知症にならなかった」だからタバコを吸っても大丈夫とはまったく言えない理由【山田悠史医師】_img0
写真:Shutterstock

これらの知見をふまえ、現在は、喫煙は比較的若い時期からの認知症リスクとして考慮されるべきであると考えられています。また、喫煙を始めてしまった人でも、禁煙をすることでそのリスクを減らすことができるとも考えられています。タバコが肺気腫や肺がんの原因になることはよく知られた事実ですが、そこに認知症という病気のリスクという知識を加えておく必要があります。

ニコチンには依存性があり、自分だけでやめようと思っても、なかなかやめられないこともしばしばです。いつかやめようと思いながらダラダラ吸い続けてしまうと、あなたに認知症を近づける要因になるでしょう。仮にあなたの祖父が「ヘビースモーカーなのに認知症にはならなかった」としても。

 

「祖父はヘビースモーカーだったけど認知症にならなかった」だからタバコを吸っても大丈夫とはまったく言えない理由【山田悠史医師】_img1

『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』
著:米マウントサイナイ医科大学 米国老年医学専門医 山田悠史
定価:本体1800円(税別)
講談社

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高齢者の2割には病気がないことを知っていますか? 今から備えればまだ間に合うかもしれません。

一方、残りの8割は少なくとも1つ以上の慢性疾患を持ち、今後、高齢者の6人に1人は認知症になるとも言われています。
これらの現実をどうしたら変えられるか、最後の10年を人の助けを借りず健康に暮らすためにはどうしたらよいのか、その答えとなるのが「5つのM」。
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ニューヨーク在住の専門医が、この「5つのM」を、質の高い科学的エビデンスにのみ基づいて徹底解説。病気がなく歩ける「最高の老後」を送るために、若いうちからできることすべてを考えていきます。


参考文献

1.    Zhong G, Wang Y, Zhang Y, Guo JJ, Zhao Y. Smoking Is Associated with an Increased Risk of Dementia: A Meta-Analysis of Prospective Cohort Studies with Investigation of Potential Effect Modifiers. PLoS One [Internet]. 2015 Mar 12 [cited 2024 Aug 18];10(3). Available from: /pmc/articles/PMC4357455/

2.    Hwang PH, Fang T, Ang A, De Anda-Duran I, Liu X, Liu Y, et al. Examination of potentially modifiable dementia risk factors across the adult life course: the Framingham Heart Study HHS Public Access. Alzheimers Dement. 2023;19(7):2975–83. 

3.    Chen H, Cao Y, Ma Y, Xu W, Zong G, Yuan C. Age- and sex-specific modifiable risk factor profiles of dementia: evidence from the UK Biobank. Eur J Epidemiol [Internet]. 2023 Jan 1 [cited 2024 Aug 18];38(1):83–93. Available from: https://link.springer.com/article/10.1007/s10654-022-00952-8

4.    Durazzo TC, Mattsson N, Weiner MW. Smoking and increased Alzheimer’s disease risk: A review of potential mechanisms. Alzheimer’s & Dementia [Internet]. 2014 [cited 2024 Aug 18];10(3 SUPPL.):S122–45. Available from: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1016/j.jalz.2014.04.009

5.    Raggi M, Dugravot A, Valeri L, Machado-Fragua MD, Dumurgier J, Kivimaki M, et al. Contribution of smoking towards the association between socioeconomic position and dementia: 32-year follow-up of the Whitehall II prospective cohort study. The Lancet Regional Health - Europe [Internet]. 2022 Dec 1 [cited 2024 Aug 18];23. Available from: http://www.thelancet.com/article/S2666776222002125/fulltext


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