行正流3つのスタイルと、夫婦の役割分担

――行正さんへリノベーションを依頼される方は、自分の好みをわかっていることが多いのですか?

行正 そうですね。本書に紹介している「モダン×北欧スタイル」「クラシック×北欧スタイル」「和×北欧スタイル」のいずれかにしたい、と決められている方は多いです。この3つのスタイルそれぞれを、私の自宅やスタジオで実際の空間としてご覧いただきます。ときどき「夫と趣味が違うので困る」というご相談があるんですが、実空間を見ることで「これなら、自分も好きだ」と、ご夫婦で目指す方向が一致したりもします。

ともさか 一致すると楽しいですよね。私が家を整えたいと思うのも、夫と暮らしまわりの趣味が合うからでもあるんです。夫は言葉にはできない、感覚的なセンス、好みをシェアできる人。誕生日に一緒に使えそうなストールや照明を贈ったりして、生活を共に深めていける部分があって。無理なく、一緒に家を育てていける感覚があります。

行正 「家でごはんを食べる時間が増えた」って言ってたものね。一緒に食事する時間が増えると、テーブルは綺麗なほうがいいな、盛り付ける器も美しいほうがいいな、といろいろ変えたくなったり。夫婦の場合、互いの「こうしたい」が合わないとリノベーションは難しいんだけど、解決の方法もいくつかあります。どうしても喧嘩が絶えないようならパッケージタイプでお任せするのが楽だし、すごく迷う人にはプロデューサー的な人を立てるのがおすすめ。旦那さんが選ぶことが好きな人なら、あえてまるっと任せるのも一つの方法です。

40代以降が適齢期。住まいから自分の将来を考える〈ともさかりえ×行正り香対談〉vol.4_img0
 

ともさか 役割分担ができると、いいんですね。

行正 「船頭さんが1人じゃないと船は沈没する」と言った人がいたんだけど、リノベーションは2人で始めるとうまくいかない事例が多いの。男性が「モダンがいい」、女性が「少しロマンチックなほうがいい」となると、その中庸を見つけるのは非常に難しい。

ともさか 好みは理屈じゃないし、人それぞれだから。どちらかを否定もできないしね。

行正 そう。空間ってシェアしなければいけないから、全く違うとね……。担当する部屋やスペースを分けるしかない場合も。いずれにしてもリノベーションではまず、大きなところを押さえるのが基本です。壁の色や質感、そこから生じる全体のムードを決める。私が提案する「モダン」「クラシック」「和」の3つも、ざらつきのある漆喰の壁、つるんっとしたスタッコ壁、茶室のような土壁と、壁のテイストが異なります。壁紙を選ぶか水性ペンキを使うかでも、空間の印象はまた違う。予算的なことを含め、最初に見極めたいポイントです。