2023年、東京国立博物館のアンバサダーとなった行正り香さん。この夏、館内のカフェ「ゆりの木」の照明ディレクションをサポートしました。
もともとは空間のリニューアルをしたいという要望だったところ、行正さんが提案したのは照明を変えることでした。テーブルや椅子、床も天井もいっさいそのまま。照明を変えただけでここまで空間は変わる! という実例を今回はご紹介します。照明器具の選び方、吊るす位置やバランスなど、家の空間づくりに役立つヒントがたくさんです。
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リフォームはしたい。でも予算は限られている。皆さんならどこから手をつけますか? 私は、家具の配置と照明器具の調整を提案します。
まずは家具の配置。テレビなどの家電がリビングルームで目立つなら、置き場を少し変えるだけで、部屋の印象が変わります。お金は一切かかりません。次に行うのは照明器具の調整です。もし天井に蛍光灯のような真っ白い光で照らし出す照明器具がついていたら、どれだけリフォームをしても、家具を新調しても、美しさが引き立つ空間になることがありません。
さて、今回はアンバサダーを務めさせていただいている東京国立博物館のカフェ「ゆりの木」の事例をご紹介いたします。照明器具を変えるだけで空間はこれだけ変化する、ということを見ていただけたらと思います。
空間をブラッシュアップしたいとご依頼のあった「ゆりの木」は、東洋館の横にあり、ホテルオークラのお料理をいただけるすばらしい空間。重厚感のあるクラシカルなインテリアです。こちらをリニューアルするにあたり、壁紙を変更する、テーブルをリニューアルする、壁にポスターなどをかけるなど複数の選択肢を考えましたが、一番印象を変えられるのは照明デザインを変えることだと思い、「飾りとしての照明器具を取り入れ、灯りを蛍光灯のような白いイメージから黄色のやさしい色みにする」ことではないかと提案しました。
私は何か提案をするとき、必ず事例写真と一緒にプレゼンをします。今回参考としたのはデンマークのルイジアナ美術館。海辺に面したカフェには低い位置に垂れ下がった照明器具が整然と並んでいます。パッと入ったときに美しいアテンションポイントとなっており、その照明器具は浮かび上がる彫刻のように、空間に個性をもたらしています。
壁を張り替える金額と同じくらいのコストで照明器具を配置できるならば、そちらの方が訪れた人の目をより楽しませることができるのではないかとお伝えしました。また、東京国立博物館という場所を考えると、どこか日本的な雰囲気を漂わせたい。そこで「照明器具を線香花火のように散らす」というコンセプトはいかがかとお話をしました。
選んだのは、ルイスポールセンのラジオハウスという照明器具。もともとはデンマーク人建築家ヴィルヘルム・ラウリッツェンがデザインしたもので、真鍮の可愛らしさが特徴的な逸品です。選ぶ電球によっては、線香花火のような柔らかさが出せるのではないかと、いくつかの電球で実験をしてから、施工をしてもらいました。
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