巡り合わせ


「ねえねえ、明日一緒のコーパイ、独身イケメンなんだって!」

今日は空港スタンバイの日。欠勤補充要因としてバックオフィスで雑務にあたるシフトだ。遅いランチタイムに社員食堂に行くと、フライトを終えた同期と顔見知りの先輩たちがお茶をしていた。横を通ると、なにやらひそひそと盛り上がっている。

「あ、酒井さん、お疲れ様……今からごはん? ここ、座る?」

同期の吉田さんが手招きしてくれた。その気持ちが嬉しくて、私はお盆をはじっこの空いた席に置いて、混ぜてもらうことにした。すると彼女たちがぐいぐいと会社のタブレットを見せてくる。

そこには、特に特徴のない、優しそうなパイロットが写っている。これがさっき言っていた独身イケメンパイロットだろうか。イケメン……?

「まあとにかく、独身ていうだけで100点!」

吉田さんが嬉しそうにタブレットを抱きしめた。……その素直さがうらやましいやら可愛いやら。

彼がパイロットを目指すと言い出した!?結婚を夢見ていた彼女が「落ちてほしい」と願った切ない理由_img0
 

「坂本コーパイ!? だめだめ、こんな穏やかな顔して曲者なんだから」

ひとつ上で、輝く美貌が評判の美里さんが、目がハートになった吉田さんに向かってゆるゆると首を振る。

「え、そうなんですか? でも私、パイロットならだいたい目、つぶれます!」

めげない吉田さんが美里さんに食って掛かると、美里さんは細く長い、ピンクのネイルが施された人指し指を立てた。

「女癖の悪さは目をつぶれたもんじゃないわよ? みんな知ってるでしょ、どうしようもない航空業界内の逸話! ステイ中にCAを部屋に誘う既婚コーパイもいるし、キャプテンに一緒に温泉に入ろうと誘われて新人CAが逃げてきたこともあるじゃない」

すると吉田さんが、意に介さず言い募る。

「しょうがないんですってば、パイロットは向こうから女が寄って来ちゃうんです! 彼女や妻はドンと構えなくちゃ。気にしてたら身が持ちませんよ」

……若いのに、吉田さんはどうやら心得を看破しているらしい。

私は沈黙しながら、定食のお味噌汁をすすった。

「だいたいそんなこといって美里さんの彼氏、パイロットじゃないですか! たしか『あっち』の会社ですよね?」

吉田さんは空港の反対側のほう、もうひとつの大手航空会社を指した。美里さんは、しっとりとした女らしさがありながら、ばっさりとものを言ってくれる肝の据わったひとで、後輩に人気がある。これで彼氏もパイロットなんてさすがすぎる。

「ユウトくん、でしたっけ? たしか年下なんですよね? 写真、見せてください!! 制服着てるところ! ありますよね、絶対?」

心臓がはねる。「あっちの会社」で、コーパイのユウト?

「じゃあ、1枚だけね。伊丹空港で偶然スケジュールが合ったから隠し撮りしたの」

美里さんが嬉しそうにスマホの待ち受けを見せた。

そこには、私が大好きだったあのひとが、世にも素敵な制服を着て写っていた。

次回予告
先輩の彼氏が、元カレのパイロット……。知りたくなかった彼女の次の行動は?

 
小説/佐野倫子
イラスト/Semo
編集/山本理沙
 

彼がパイロットを目指すと言い出した!?結婚を夢見ていた彼女が「落ちてほしい」と願った切ない理由_img1
 

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