まるで映画のワンシーンのような華麗なパレード、豪華な宮殿での晩餐会……。6月22日から29日にかけて、天皇陛下と雅子さまは国賓として英国に公式訪問をされました。お二人は英国王室や国民からのあたたかい歓迎を受け、式典や晩餐会へのご出席をはじめ、さまざまな施設に足を運び友好親善を深められました。訪英中、天皇陛下はご自身の研究テーマである「水問題」に関連する施設も訪問されました。チャールズ国王と天皇陛下はともに地球と人類の未来を見据えたご活動をされています。それはどのようなものなのでしょうか? 皇室を長く担当し取材を重ねてきた毎日新聞客員編集委員でジャーナリストの大久保和夫さんに伺いました。

【チャールズ国王と天皇陛下】お二人に共通する、未来を見据えたご活動とは?<ジャーナリストがいま振り返る、天皇皇后両陛下の訪英⑤>_img0
バッキンガム宮殿での晩餐会を前に、にこやかな笑顔を見せる天皇皇后両陛下と、チャールズ国王夫妻。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

日英の研究者が協力して問題解決に取り組む


――今回の訪英では、研究施設へもご訪問されていますね。

大久保さん:天皇陛下が6月24日にテムズバリア、26日にフランシス・クリック研究所を訪問されています。実は、チャールズ国王も天皇陛下も未来を見据えた思考をお持ちなのです。チャールズ国王は気候変動や環境の問題に早くから取り組んでおられますし、天皇陛下も水問題を意識されています。

ここで注目すべきなのは、問題解決に向けて日英が協力していることです。今回の訪英での訪問や、スピーチの内容に随所にこのことがあらわれているんですよ。改めて見ていきましょう。

26日、陛下はフランシス・クリック研究所に向かわれました。ここはバイオメディカル分野ではヨーロッパ最大の施設で、がんやインフルエンザといった感染症の研究を行っています。日本からも研究者が派遣されていて、日英で共同研究をしているんですよ。

――日本の研究者にとっても、ポイントを押さえたご訪問と感じられたかもしれませんね。

大久保さん:そうですね。今、新型コロナなどのウィルス感染症や気候変動といった人類共通の問題は、1ヵ国だけで解決できる時代ではありません。国同士がグローバルな関係を作りながら、最先端の研究をしていかなければならないのです。日本人も、どんどん海外に出て、このような最先端の研究に参加するのがあたりまえの時代になってきています。このフランシス・クリック研究所を陛下が訪れたのは、非常に意義深いことだったと思います。

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フランシス・クリック研究所でポール・ナース所長(左)の出迎えを受けた天皇陛下。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

25日の国王王妃両陛下主催の晩餐会のスピーチでも、天皇陛下はノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授のiPS細胞の研究にふれ、
「同賞を共同受賞した英国のガードン博士の先行研究の成果を踏まえたものであり、再生医療に革新をもたらしました」
と話され、日英の協力関係をアピールされています。

 


テムズ・バリアの開発に尽力した作家カズオ・イシグロの父


――テムズ・バリアにも行かれていますね。ここはテムズ川の施設ですか。

大久保さん:はい、天皇陛下は学生時代から水問題に注目されていて、英国に留学されていたときには、「18世紀のテムズ川の水上交通」を研究テーマにされていました。

テムズ・バリアはロンドンを流れるテムズ川の洪水を防ぐ世界最大級の可動式防潮システムです。もともとテムズ川は、北海の干潮と満潮の影響を受けて、水位が大きく変わるんです。そこに高潮と大雨が重なると水害が起こります。

――海から川に水が逆流してくるのですか?

大久保さん:そうです。1953年に大潮・高潮・暴風雨による英国史上最悪の被害が起き、多くの人が亡くなりました。この悲劇を再び起こさないよう、テムズ・バリアが建設されたのです。陛下は晩餐会でのスピーチで、テムズ・バリアにもふれています。

高潮予測の発展には、日本の海洋研究者石黒鎮雄(しずお)博士が英国の研究所に招かれ、高潮の正確な予測をする計算機をつくって貢献したそうです。日系英国人でノーベル文学賞を受賞した、カズオ・イシグロさんの父親です。

――カズオ・イシグロさんは『日の名残り』『わたしを離さないで』『忘れられた巨人』などの作品を書かれていますね。映画にもなっていて、広く知られています。心に残る名作ばかりです。