糖尿病に若くしてなるほど、認知症になる率が高まる


あなたは糖尿病について、もしかすると単に血糖値が高くなる病気としか考えていなかったかもしれません。あるいは、目や腎臓が悪くなる病気ということはご存知だったかもしれません。しかし、実は認知症とも深く関わっているのです。

糖尿病、中でも2型糖尿病は、認知症発症のリスクを高める重要な要因として知られるようになりました。また、最近の研究によれば、「糖尿病をいつ発症するか」も認知症リスクに大きな影響を与えることが分かってきました。

「甘い飲み物」をよく飲む人は認知症になる率が高くなる!その納得のメカニズムとは?【老年医学専門医・山田悠史】_img0
写真:Shutterstock

ある大規模な研究では、2型糖尿病の発症年齢が5歳若くなるごとに、認知症のリスクが24%も増加することが報告されています(参考文献3)。つまり、若くして糖尿病になればなるほど、将来認知症になるリスクが高まるのです。一方で、70歳を過ぎてから糖尿病を発症した場合、認知症リスクとの関連はそれほど明確ではありません。つまり、特に働き盛りのうちに糖尿病を発症しないよう予防することが、認知症予防にもつながりそうなのです。

ビジネスパーソンが、仕事の引退が間近になって、仕事に余裕が生まれ、急に健康に気をつけ始めるというのを医師として目にすることが度々ありますが、それでは間に合わないかもしれないということです。

 


糖尿病が認知症の要因となる3つの理由


では、なぜ糖尿病が認知症リスクを高めるのでしょうか?その理由として、以下のようないくつかの要因が考えられています。

1.血管への影響:糖尿病は長期的に血管を傷つけ、脳梗塞のリスクを高めます(参考文献4)。これが血管性の認知症につながる可能性があります。

2.インスリンへの反応の低下:2型糖尿病では、体の細胞がインスリンに反応しにくくなることが知られています。インスリンは、血管の中にある糖を細胞の中に取り込むのに重要な働きをしています。このため、細胞がインスリンに反応しにくくなると、脳の細胞も同様に、エネルギーを生み出すのに大切な糖を細胞の中に取り込みにくくなり、都合が悪くなるというわけです。これがアルツハイマー病の発症メカニズムとも関連していると考えられています(参考文献5)

3.炎症:糖尿病を発症すると、体の中では炎症が起こりやすいことが知られています。例えば、血糖値が高い状態が続くと、糖とタンパク質や脂質が結びつき、こうした物質が体の中で炎症を引き起こすことが知られています。また過剰になった内臓脂肪も炎症を引き起こすことが知られています。そして、この炎症が認知症リスクを高める可能性があるのです(参考文献3)

こうして、糖尿病を発症すると認知症のリスクを高めていくことになると考えられています。
しかし、仮に糖尿病を発症してしまっても、糖尿病の治療が認知症リスクを低くできるのではないかと考えられており、それについてもよく研究されています。興味深いことに、特定の種類の糖尿病治療薬が認知症リスクを下げる可能性が示唆されています。


糖尿病の薬が認知症リスクを下げたり上げたりする


例えば、糖尿病のある人が、SGLT2阻害薬と呼ばれる種類の薬を使って治療をすると、認知症リスクを59%低下させること、GLP-1受容体作動薬と呼ばれる種類の薬がリスクを66%低下させることが報告されています(参考文献6)。一方で、スルホニル尿素薬と呼ばれる薬を使った場合には、認知症リスクが43%増加するとも指摘されています(参考文献6)

ただ「治療をする」と言っても、薬の選択によって将来の認知機能が変わってくる可能性があるということです。糖尿病を発症した場合、あなたの認知症リスクは医師の薬の選択にもかかっているのかもしれません。

いずれにせよ、まずは2型糖尿病になるのを防ぐこと、そして仮に糖尿病になっても、適切に治療をすることが認知症リスクという点で重要です。糖尿病は決して血糖値だけの問題ではありません。実は、将来の認知機能にも大きな影響を与える可能性のある病気です。あなたが日々摂っている飲み物の選択は、糖尿病リスクを介して、将来の脳の健康まで左右する可能性があるのです。

 

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参考文献
1.    Schulze MB, Manson JAE, Ludwig DS, Colditz GA, Stampfer MJ, Willett WC, et al. Sugar-sweetened beverages, weight gain, and incidence of type 2 diabetes in young and middle-aged women. JAMA [Internet]. 2004 Aug 25 [cited 2024 Sep 6];292(8):927–34. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15328324/
2.    Imamura F, O’Connor L, Ye Z, Mursu J, Hayashino Y, Bhupathiraju SN, et al. Consumption of sugar sweetened beverages, artificially sweetened beverages, and fruit juice and incidence of type 2 diabetes: systematic review, meta-analysis, and estimation of population attributable fraction. BMJ [Internet]. 2015 Jul 21 [cited 2024 Sep 6];351. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26199070/
3.    Barbiellini Amidei C, Fayosse A, Dumurgier J, MacHado-Fragua MD, Tabak AG, Van Sloten T, et al. Association Between Age at Diabetes Onset and Subsequent Risk of Dementia. JAMA [Internet]. 2021 Apr 27 [cited 2024 Sep 6];325(16):1640–9. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33904867/
4.    Xue M, Xu W, Ou YN, Cao XP, Tan MS, Tan L, et al. Diabetes mellitus and risks of cognitive impairment and dementia: A systematic review and meta-analysis of 144 prospective studies. Ageing Res Rev [Internet]. 2019 Nov 1 [cited 2024 Sep 6];55. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31430566/
5.    Michailidis M, Moraitou D, Tata DA, Kalinderi K, Papamitsou T, Papaliagkas V. Alzheimer’s Disease as Type 3 Diabetes: Common Pathophysiological Mechanisms between Alzheimer’s Disease and Type 2 Diabetes. Int J Mol Sci [Internet]. 2022 Mar 1 [cited 2024 Sep 6];23(5). Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35269827/
6.    Tian S, Jiang J, Wang J, Zhang Z, Miao Y, Ji X, et al. Comparison on cognitive outcomes of antidiabetic agents for type 2 diabetes: A systematic review and network meta-analysis. Diabetes Metab Res Rev [Internet]. 2023 Oct 1 [cited 2024 Sep 6];39(7). Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37302139/


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