今年上半期の芥川賞候補作となった『転の声』は、作家としても知られる、ロックバンド「クリープハイプ」の尾崎世界観さんの最新作。プレミア付きライブチケットの高額転売をテーマにした同作の主人公、以内右手(いないみぎて)は、読む人が読めば「これは尾崎さんそのものでは?」と感じてしまうような人物です。「自分がバンドをやっていて、ほぼ同じような状況を書いているので、切り離して読むのはなかなか難しいですよね。小説を書く以上、どうしてもそこからは逃げられないし、今後も戦っていかなければならないんですが、それはそれで楽しみの1つでもあります」と尾崎さん。興味深いのは、転売を巡るSNSの狂騒の中で、「推し」と「ファン」の間にある愛憎が浮き彫りにされてゆくこと。「好きになるのはしんどいこと」と、尾崎さんは語ります。

「好き」は恐ろしい。尾崎世界観が語る「ファンとアーティスト」という関係_img0
 

尾崎世界観
1984年、東京都生まれ。2001年結成のロックバンド「クリープハイプ」のヴォーカル・ギター。2012年、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。2016年、初の小説『祐介』を書き下ろしで刊行。その後も執筆活動を続け、20年「母影」で第一六四回芥川賞候補作に選出される。著書に『苦汁200%』、『泣きたくなるほど嬉しい日々に』、『身のある話と、歯に詰まるワタシ』(対談集)、『私語と』(歌詞集)などがある。