「自分の葛藤を小説にして俯瞰する。それと同時に、“冷静に見ています”とアピールすることで、自分を保っているようなところがありますね」。ロックバンド「クリープハイプ」の尾崎世界観さんは、第一七一回芥川賞候補となった最新小説『転の声』について、いかにも彼らしい表現でこう語ります。バンドマン・以内右手(いないみぎて)を主人公にした同作は、「自分が本当にいいと信じるもの」と「バズるもの」の間で翻弄される表現者の葛藤を描き出します。「クリープハイプの曲は『バズる』ということがない。でもだからこそ、コアなお客さんがついてくれているのかなと自分を納得させているんです。とはいえ『もっと売れたいな』という気持ちもある」。そんな尾崎さんが、「誰かが欲しいものが、みんなほしい」という欲望の行き着く先に見たのは、いったいどんなものなのでしょうか?

【尾崎世界観】無観客ライブで感じた「一方的に差し出す怖さ」。観客が生で受け取りたいものは何か?を考えるきっかけに_img0
 

尾崎世界観
1984年、東京都生まれ。2001年結成のロックバンド「クリープハイプ」のヴォーカル・ギター。2012年、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。2016年、初の小説『祐介』を書き下ろしで刊行。その後も執筆活動を続け、20年「母影」で第一六四回芥川賞候補作に選出される。著書に『苦汁200%』、『泣きたくなるほど嬉しい日々に』、『身のある話と、歯に詰まるワタシ』(対談集)、『私語と』(歌詞集)などがある。