意外な受験生

「塾が終わったあと、21時からうちに来て」高級タワマンで暮らす美貌の母親。笑顔で口にする、衝撃の依頼とは?_img0
 

「こんにちは、斗真くん。私は神崎隼人と申します。中学受験の家庭教師です。10月から本番まで、ラストスパートに並走して、君を合格に導きます。一緒に頑張りましょう」

顔合わせの日、俺はイメージと異なる様子に内心驚いていた。

あの、どこか過剰気味な母親と医者の1人息子だ。受け身のぼんやりしたおぼっちゃんが来ると思っていた。実際、事前に見た成績も大したことはなくて、全教科マトリックスの偏差値50弱。もちろん最難関塾の平均付近ということだからそこそこのレベル。ただ全国的に名門として知られる星雲中に入るのは難しいと思っていた。

「ども。先生、合格請負人なんでしょ? 悪いね、オレみたいなのを担当することになって。今年の合格率に関わるもんな」

そう言って片頬で笑った斗真くんは、色黒のやせっぽちで、でも目の奥には強い光があった。

変声期はまだ来ていないようで、声は子どもだけど、大人びた表情だ。長年の経験からすれば、このタイプの子はそう成績が悪いはずがないのだけど……。

「先生、お手柔らかにお願いします」

そう言ってぺこっと頭を下げた彼は、あの母親よりもよほど大人に見えて、俺は内心驚きながら握手をする。

……これは少々、面倒な家庭を担当することになったかもしれない。

彼が勉強する様子を見ながら、長年この仕事をしていて培った勘がそう警鐘を鳴らしていた。

次回予告
始まった特訓授業。次第にさまざまなことが明らかになり……?

 
小説/佐野倫子
イラスト/Semo
編集/山本理沙
 

「塾が終わったあと、21時からうちに来て」高級タワマンで暮らす美貌の母親。笑顔で口にする、衝撃の依頼とは?_img1
 

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