私の人生を採点していいのは、私だけ

『虎に翼』の“虎”は、決して無力ではない私たち。そしてこの物語が、地獄を生きる“翼”になる【横川良明の『虎に翼』隔週レビュー25•最終週】_img0
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最愛の姉を助けるため、意に沿わぬ選択をしたよね。たった一度。たった一度のことです。でもそのたった一度が、よねをずっと苦しめてきた。だから、よねは誓った。もう二度と自分の信念を誰かに売り渡したりしないと。結果的に、その決意はよねを弁護士の夢から遠ざけることになりました。男装や態度を咎められ、試験はずっと不合格。すぐそばでは、同期の寅子が女性初の弁護士としてスポットライトを浴び、キャリアを重ねている。苦しくないわけがない。それでも、よねは自分を曲げなかった。間違えているのは、自分ではなく、この時代や社会。権力に媚びることなく、常にファイティングポーズをとり続けたよねは、『虎に翼』でも特に愛されるキャラクターとなりました。
 

 


家と母を守るため、法曹の夢を手放した涼子(桜井ユキ)。華族制度の廃止により身分を失いましたが、その聡明さと気高さが失われることはありませんでした。なぜならそれらの美点は、涼子が恵まれていたから持ち合わせたものではなく、彼女の不断の努力によって養われたものだから。実業家として成功をおさめたのち、再び司法試験に挑戦。見事合格を掴み取ったものの、法曹の道は選びませんでした。時代に翻弄され、人生をねじ曲げられた悲劇のヒロインではない。私は、私の意志で、今の道を歩いている。その柔和ながら毅然とした物腰は、出会った頃から変わらない「涼子さま」そのものでした。

『虎に翼』の“虎”は、決して無力ではない私たち。そしてこの物語が、地獄を生きる“翼”になる【横川良明の『虎に翼』隔週レビュー25•最終週】_img1
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愛する息子との人生を選び、試験当日に姿を消した梅子(平岩紙)。しかし、そんな息子からも裏切られた梅子は、家族を捨て、自分の人生を生き直すことを決めました。最後は長年の修行が実を結び、「笹竹」の女将に。確かに今の梅子には血を分けた家族は一人としてそばにいません。三人もの子を産んだのに、母としては報われなかったのかもしれません。でも、彼女の人生が失敗だったわけではない。共に店を切り盛りする道男(和田庵)たちから「そこにいてくれりゃいい」と必要とされる梅子は、どれだけ尽くしても感謝のひとつもされなかった時代より、ずっと幸せそうでした。

戦争と共に激化する朝鮮人差別により法律家の道を断念したヒャンスク(ハ・ヨンス)。夫となる汐見(平埜生成)と再び日本にやってきてからは、朝鮮人であることを隠すため、「香子」と名乗り、寅子たちとの交流も自ら遠ざけていました。名前を奪われ、友を奪われ、息をひそめるように生きてきたヒャンスク。彼女もまた司法試験への再挑戦を通じて自分自身を取り戻していきます。ヒャンスクの「私たち、最後はいい方に流れます」は本作きっての名台詞の一つ。それは、彼女たちが自らの意志で道を選び取ってきたからこそ言える実感でもあり、なんだか長い人生における福音のようでした。


他にも、周りの人を支える生き方の尊さを示し続けた花江(森田望智)や、控えめながら向学心に溢れ、涼子と無二の友情を築いた玉(羽瀬川なぎ)。そして、「雨垂れ」となることを嫌いながら、最後は自ら「雨垂れ」となることを光栄だと笑顔を浮かべた寅子。みんな自分の人生を生き抜いた。

他人に自分の生き方を強制されるのは納得がいかない。でも、自分で選んだ道なら胸を張れる。私の人生を採点していいのは、私だけ。やり切った上でのことなら、満点でも赤点でも何でもいいのです。