私たちは虎。決して無力なんかじゃない
 

寅子たちの時代に比べたら、今はずっと生きやすくなったように思えます。けれど、あの頃と変わらない差別や理不尽は山のようにあって。あるいは、寅子たちの時代にはなかった生きづらさもどんどん出てきて。結局、いつの時代も生きるのは困難なものなのだと思い知らされます。

『虎に翼』の“虎”は、決して無力ではない私たち。そしてこの物語が、地獄を生きる“翼”になる【横川良明の『虎に翼』隔週レビュー25•最終週】_img0
©︎NHK

窒息しそうな毎日の中で、溺れずにこの海を渡っていくにはどうすればいいのか。生き方は人それぞれですが、『虎に翼』を観て、少数派になることを恐れてはならない、と気づかされました。

世の中をうまく渡り歩くには、多数派でいたほうが圧倒的に楽。でもそこで自分を殺してしまったら、何の意味もない。


みんなが持っているからと、ほしくないものを手に入れようと躍起になったり。世間がこうだからと作り笑顔を浮かべて、自分のプライドを汚したり。今までそんなことをさんざん繰り返してきましたが、それで幸せになれたかと言ったら「はて?」としか言いようがない。無理してまでしがみつこうとしたその場所に、自分の幸せなんて最初からなかったのです。

だったら、人が笑っても、後ろ指を差しても、私は私が行きたい場所を目指す。たとえそこがどんな地獄でも、そっちの方がきっと最後には自分のことを「最高です」とマルしてあげられる気がします。


でも人はそんなに強くはないから、一人で地獄の道は歩けない。寅子だって、一人では心が折れていた。みんながいてくれたから、地獄の道が冒険に変わった。

『虎に翼』の“虎”は、決して無力ではない私たち。そしてこの物語が、地獄を生きる“翼”になる【横川良明の『虎に翼』隔週レビュー25•最終週】_img1
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家族でも恋人でも友達でも誰でもいい。属性なんて関係ないし、多くても少なくてもいい。「行け!」と背中を押してくれる人がいれば、私たちは自分の道を歩いていける。そして、自分自身もまた「行け!」と誰かの背中を押してあげられる人でありたい。

「虎に翼」とは「ただでさえ強い力をもつ者にさらに強い力が加わること」(小学館『デジタル大辞泉』より)。

私たちは本来みんな虎なんです。決して無力なんかじゃない。千里の道を駆けることだってできる。あとは翼を見つければ、自分を虐げようとする悪意に吠え、牙を剥ける。生きることは、自分だけの翼を見つけることなのかもしれません。

中には、その翼が見つからない人もいる。心を預けられる相手を見つけられない人もいる。きっとそんな人の翼になってくれるのが『虎に翼』というドラマなんだと思います。このドラマは戦う人たちを決して蔑ろにしない。あなたの声を遮らず、ちゃんと「続けて」と聞いてくれる。

だから勇気が出ないときは、僕もまた『虎に翼』を見返して。心によねさんを住まわせるのもいいし、涼子さまや轟(戸塚純貴)も楽しそう。これだけたくさんの味方がいれば百人力です。そして、ちょっと心をほぐして、また戦線に出る。

誰にも奪われない自分の生き方を信じて、胸を張り、前だけを見て。
 

 

NHK 連続テレビ小説『虎に翼』
出演:伊藤沙莉
石田ゆり子 岡部たかし 仲野太賀 森田望智 上川周作
土居志央梨 桜井ユキ 平岩 紙 ハ・ヨンス 岩田剛典 戸塚純貴
松山ケンイチ 小林 薫
作:吉田恵里香
音楽:森優太
主題歌「さよーならまたいつか!」米津玄師
語り:尾野真千子

【放送予定】
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
※NHK+で1週間見逃し配信あり
 

文/横川良明
構成/山崎 恵
 
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