「くそー!」と思いながら過ごした一人旅

「認知症の症状ばかり見て、母自身を見ていなかったことに反省した」。認知症の母、ダウン症の姉、酔っ払いの父と暮らす、にしおかすみこさんの“2年目”_img0
 

——『ポンコツ一家2年目』の中では、一人旅に行かれたことも書かれていますね。

にしおか:はい、小っちゃい家出ですね(笑)。長野の諏訪湖に行ってきました。一旦、家族のことを全部忘れてと思って行ったんですが、やっぱり完全に忘れるというのは難しかったです。息抜きしては、家族間のゴタゴタを思い出し、「くそー!」となりながらの一泊二日でした。それでも気分転換はできました。しょっちゅう旅行に行って息抜きしたいところですが、そんなお金も貯金もないので、現実には難しいですね。

——にしおかさんは、普段の気晴らしとか、疲れたときの解消法ってありますか?

にしおか:マニアックな趣味ですが、野菜やフルーツを彫ったりして、お花や龍を作ったりするベジタブルカービングを時々やります。これをしている時間は無心になります。他には都内のお洒落なカフェのテラス席に座ってコーヒーを飲みます。なんだかイケている女性な気がしてきます(笑)。でも夜、息抜きしたいとき、お店は閉まっているし逃げ場がないんですよねえ。

父と母は夜に夫婦喧嘩することが多いんです。仲裁しても無駄だということは嫌というほど経験済みです。とにかく自室でイヤホンをして、焚き火や雨等のヒーリング系音楽を聴きながら、そのまま寝られたら寝ちゃいます。歌詞がある音楽を聴くと“歌詞に疲れちゃう”ので。もっといい方法ないですかねえ(笑)。

 

「父にブチ切れた日」で一線を越えた理由


——夫婦喧嘩というと、今回は“お父さまがお母さまに傷の残らない暴力を振るったこと”も書かれています。どんな心境でこの言葉を添えたのでしょうか。

(中略)父はこちらに背を向け、母が窓際へと追い詰められていた。ジジイが、泣いているババアの頭をまるでハンバーグのタネの空気を抜くように、左手から右手へ、右手から左手へと弄ぶように揺さぶっている。傷の残らない暴力。この人のやり方だ。起き上がりこぼしのような母は、バランスを崩しながらも懸命に猫パンチと猫キックで応戦している。そして僅かな声で「こんにゃろ、こんにゃろめ」と。目を瞑り、ひとつもどこにも当たっていない。
 
 私の一線が切れた。

「てめえええ! 何しやがる! クソがああ! 警察呼ぶぞ!」

 ハッとした顔でジジイが振り返り、サッと手を引っ込める。

——『ポンコツ一家2年目』より

にしおか:現在、家族は生きていますし、尊厳もあるし、個人情報をどこまで出すかのさじ加減はいつも迷います。家族が生きにくくなるのは嫌です。世に出すと決めても、それが正しいのかどうかもわかりません。ただ一個一個よく考え、後悔のないようにと思って書いています。