ダンプ松本はなぜ「全国民の敵」になったのか?
そんな『極悪女王』ですが、やっぱり引き込まれるのはそのストーリー性。
当時はプロレス全盛時代。数々のスターたちが脚光を浴びる中、光が強ければ影も濃くなるように、人間関係にもさまざまなほころびが生まれ、憎しみ合い、妬み嫉みが渦巻くようになります。
デビュー当時から頭角を表した長与は、プレースタイルが他のレスラーから反感を買い、一本気で無鉄砲な性格も災いして孤立。いじめの標的になってしまいます。人気を独占するクラッシュギャルズは会社にとって金のなる木。会社が行かせたい方向と、ふたりがやりたいプロレス、さらにふたりがそれぞれやりたいプロレスに徐々に違いが生まれ、溝が深まっていきます。
クラッシュギャルズに限らず、レスラー同士の仲間割れは日常茶飯事。バックステージでの場外乱闘もしょっちゅうで、どろどろとした人間関係も見どころのひとつです。
そして、なんといっても、純朴ピュアなプロレスに憧れる少女だった松本香が、なぜ全国民の敵とまで言われた極悪プロレスラーになったのか。その背景がすごく面白いんですよね。
引き金となるのが、松本香のろくでもない親の存在です。外に愛人と子どもまで作って、たまに帰って来たかと思ったら金をせしめる父親を松本は強く憎んできました。そんな父親が、金を払えば長与千種と会えると触れ回り、松本は会社から呼び出され、親をどうにかしろと言われる事態に。話をつけるために久しぶりに家に帰ると、なんと父親と母親がよりを戻していたのです。松本はまるで邪魔者のような扱いを受けてしまいます。松本にとっては大きな裏切り行為でした。
それだけでなく、貧しく売れない時代を共に支え合って過ごした親友である長与千種との間に、ひょんなことから確執が生まれることに。当時絶大な人気を誇ったクラッシュギャルズにどんどん差を付けられていく中、「自分もスターになりたい」と願った松本香は“闇堕ち”。世紀の極悪レスラー・ダンプ松本が誕生します。
「世の中の罵詈雑言を食って生きていく」覚悟の生き様
髪を染め、目をマジックで大きく囲い、漆黒のリップを塗って武装したダンプ松本はリング上で武器を乱用し反則を連発、悪行の限りを尽くす極悪レスラーへと変貌。気弱で、ろくにヒール役もやれなかった松本香の姿はもうそこにはありません。
チェーンで首を絞め、フォークで頭を突き刺し流血させ、パイプ椅子で頭を殴打する。アイドル的人気を誇ったクラッシュギャルズを血まみれにするダンプ松本は日本中から敵視され、会社には連日「死ね」と書かれた手紙や、ダンプ松本の写真を遺影に仕立てたもの、釘が突き刺された藁人形、さらには手紙を開くときに剃刀で手を切るように細工されたものなどが大量に届く事態に。実家にも酷いいたずらが相次ぎ、壁は落書きだらけで、ダンプ松本の家族を置いておけないと言われ退去を余儀なくされてしまいます。
しかしそんな中ダンプ松本は、「世の中の罵詈雑言を食って生きていく」と、送られてきた誹謗中傷の手紙をあえて壁に貼り、眺めては自らを奮い立たせるのでした。
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