問い合わせの電話をかけてみると、NHK『きょうの料理』でもお馴染み、今は亡き、柳原一成先生がたまたまお出になった。
「あのぉ、教室に興味があるのですが、私、包丁の握り方すらわからないのですが、伺っても大丈夫でしょうか」と恐る恐る伺うと、先生は
「あのね、うちは出来ない人が出来るようになるように教えるところなの。出来たら、来る必要ないでしょう? 包丁の握り方から教えるから、大丈夫。じゃあ早速、明日からいらっしゃい」と、優しい声でサバサバとおっしゃり、私はその場で、翌日から教室に通うことになった。

本当に基礎の基礎から教わった。お米の洗い方、炊き方、出汁のとり方、味噌汁の作り方、魚の捌き方、焼き方、野菜の煮方…ひとつひとつ出来るようになると、まず恐怖心がなくなる。そして何よりも、教室で自分たちで作ったものが、どれも驚くほど美味しかった。普段の食卓に上がるような味噌汁やおかずも、下ごしらえやちょっとしたコツを掴むと、こんなにも味が違い、ご馳走のような美味しさになるのかと感激した。

野菜は雑誌の上で切る、オーブンの中には本…「食へのこだわりなし」の自分をガラリと変えた、驚愕と感動の美味体験【住吉美紀】_img0
日本料理を習ってから魚を捌くのにハマり、特にアジは色々な人の家で度々捌いた。

さらに、柳原料理教室では、日本の食文化や食習慣についても講義の中で教わる。食材産地の歴史、東西の出汁や味の違い、お節料理や茶懐石について学ぶうちに、私の中で、「日本の食」に対するときめきと”好き”の気持ちがどんどん膨らんだ。日本人は、なんて敬意溢れる、繊細で感性豊かな関係を「食」と紡いできたのだろう。私の中の小さなアメリカ人が、心から感動していた。

 

50代の私は、時折ピザが無性に食べたくはなるけれど、「やっぱり、白いご飯と味噌汁が一番ホッとする。ソウルフードだわ」と感じる人になっている。そして、こんな私になったからこそ、今、「米づくり」ともライフワーク的な付き合いをするようになったのである。その話はまた次回。

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