お金は「預かりもの」
お金は人生に自由な選択肢を与えてくれる、大切なアイテムです。
お金があることで、欲しいものが買えるし、行きたいところまで行けるし、助けたい人を助けることもできる。「だから、できるだけたくさんのお金が欲しい」と、若いころは考えていました。
でも、人生の後編を迎えて、ようやくわかってきたのです。
お金というものは、決して「所有できるもの」ではない。どんなにたくさんのお金が手に入ったとしても、それは「預かりもの」なのだということが。自分のお財布や銀行口座の中に入っているお金は、自分の所有物ではなくて、いったん社会から預かっているものだと考えるのが正しいと気づきました。
「松浦弥太郎という人物は、なかなかまじめにやっているようだから、きっとこれからもいい経験をして、社会のために役立つお金の使い方をしてくれるだろう。だから、今回は少し多めにこのくらいのお金を預けよう」
どこからかそんな意思が働いて、僕にお金を預けているイメージです。
さらにいえば、預かったお金をどう使うかをつねに試されていて、僕がつまらない使い方をしてしまったときには、「松浦弥太郎はせっかく預けたお金をムダにした。もうこれ以上は預けることはできないな」と判断される。すると、たちまち金回りが悪くなってしまう。
こんなふうにお金を「信頼に応じて変動する預かりもの」としてとらえると、その使い方はていねいになるはずです。僕はお金だけでなく、服や食器、家具などの持ち物に関しても「預かりもの」ととらえています。食べ物などの消耗品を除いては、ぜんぶ「自分の所有物ではなく、一時的に預かったもの」と考えることで、セーター1枚もお茶碗一つも、より大事にあつかうようになるものです。
お金も同じで、1円たりとも自分の持ち物ではなく、一時的に預かっているだけで、使い方を見定められていると考えれば、いい意味での緊張感が生まれます。お金には、人生を一変させるだけの力があります。その軌道が乱れることがないように、きちんと自分自身をコントロールするのも、大人のつとめでしょう。
著者プロフィール
松浦弥太郎(まつうら やたろう)さん
エッセイスト。2002年セレクトブック書店の先駆けとなる「COWBOOKS」を中目黒にオープン。2005年からの9年間『暮しの手帖』編集長を務める。その後、IT業界に転じ、(株)おいしい健康取締役就任。2006年より公益財団法人東京子ども図書館役員も務める。他に、ユニクロの「LifeWear Story 100」責任編集。「Dean & Delucaマガジン」編集長。映画「場所はいつも旅先だった」監督作品。著書は『今日もていねいに』(PHPエディターズ)『しごとのきほん くらしのきほん100』(マガジンハウス)『エッセイストのように生きる』(光文社)など多数。「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。
『50歳からはこんなふうに』
著者:松浦弥太郎 ディスカヴァー・トゥエンティワン 1650 円(税込)
『暮しの手帖』の元編集長で、エッセイの名手としても知られる松浦弥太郎さんが、50歳からの人生を「おもしろく・楽しく」生きるための47のヒントをつづります。「これからどうやって生きていこう」と悩んでいる、仕事や人生に疲れを感じている、物事に対して無気力になりがち、など。中年期独特の心や体の変化に戸惑っている人におススメしたい一冊です。
写真:Shutterstock
構成/さくま健太
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