妻にも丁寧語で話す、お金を無計画に使う、話し合おうとしても黙ってしまう、他者の気持ちがわからない……。どこかずれている夫との日常を描くコミックエッセイ「旦那(アキラ)さんはアスペルガー」(コスミック出版)シリーズで20万部超のヒットを記録した漫画家の野波ツナさん。
そんな野波さんが最近出版したのが、『発達障害・グレーゾーンの あの人の行動が変わる言い方・接し方事典』という実用書。夫・アキラさんと暮らす中で得た経験、そして発達障害の専門家への取材で得た知識を惜しみなく公開しています。早くも3刷1万2000部に達した本書に込められた思いを野波さんにお聞きしました。
インタビュー前編
突然会社を辞めた夫。「これからどうするの?」と聞いたら、夫は「どうしましょう?」...発達障害のパートナーとの日常と、そこから私が学んだこと【野波ツナさん】>>
「発達障害」の診断の有無より大切なこと
——野波さんの『発達障害・グレーゾーンの あの人の行動が変わる言い方・接し方事典』は、本の中で「発達障害」という言葉を使わずに、「あの人」という言葉に置き換えて表現されています。その意図も教えていただけますか。
野波ツナさん(以下、野波):「発達障害」という言葉を使わないことは、この本の一番のこだわりなんです。発達障害は、体の病気のように陽性・陰性のマーカーがありません。スペクトラム(グラデーション)です。「幼少時に疑いを持たれる」、成長後は「本人に困り感がある」、そして「病院に行く」といったハードルを越えないと「発達障害」という診断は得られません。それに、困り感があって病院に行き、診断が下りた人は、自認がある程度できていて、苦悩しながら社会に溶け込む努力をしている人だと思います。
でも、本人に自覚がないまま、パートナーあるいは周囲の人たちが「この人は発達障害かも」と思って病院に連れて行ったとしても、「本人に困り感がない」ので、なかなか解決には繋がらないんです。もちろん、発達障害関係を語る場合には、診断の有無は常に言及されます。他人が勝手に決めつけるな、とか。ただ私としては、診断の有無よりも、特性の方向性やその強さの方が重要だと考えているんです。
——なぜそう思われたのでしょうか?
野波:診断名よりも特性の方向性やその強さによって、関わる人の困り感が生じて、巡り巡って「本人の居心地の悪さ」に繋がるからです。診断というのは、病院に行った人だけが得られるものですし、診断がないからといって“特性がない”ということにはなりません。だから、「私の話を全然聞いてくれない」とか、「話し合おうとすると機嫌が悪くなる」といった、問題に気づいた時点で、この本を使ってもらいたいなと思いました。だから診断の有無にこだわらず、間口を広くするために、「発達障害の人」ではなくて「あの人」とすることにしたんです。
育児に介護…やることが山積みのミドル世代が、「あの人」に協力を仰ぐときのおすすめの接し方6つ
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「“話し合う”ことが必須になると思うので、それを可能にする段階を踏むといいと思います。いきなり“話し合いましょう”と言ってもうまくいかないので、時間をかける必要はありますが、一つずつ試してみてください」(野波さん)
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