「演劇」を活用し、さまざまなコミュニケーションで教育活動を行ってきた劇作家で演出家の平田オリザさん。大学入試改革にも携わっている平田さんは、演劇を学ぶ初の国公立大として、2021年度に開校する予定の国際観光芸術専門職大学(仮称)の学長就任も決まっています。連載「22世紀を見る君たちへ」では、これまで平田さんが「教育」について考え、まとめたものをこれから約一年にわたってお届けします。
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2021年、現行のセンター試験が廃止されて、いわゆる新制度入試が開始される。今年の高校1年生から、この受験制度になるわけだが、未だにその実態が見えず教育現場は不安を抱えたままだ。
そもそも、この制度改革は、「高大接続」と呼ばれ、大学入試の改革をテコにして、高校と大学の授業カリキュラムにも変革を迫ろうとする意欲的なものであった。これを称して「三者一体の改革」と言う。
本来、そこで問われていたのは、新しい「学力」観だった。文部科学省は2007年、学校教育法を改正し、「ゆとり教育」への批判に応える形で、「ゆとり」か「基礎学力」かという対立を止揚する概念として「学力の三要素」という新しい提言を行った。ここで言う三要素とは、
●基礎的な知識・技能
●思考力・判断力・表現力等の能力
●主体的に学習に取り組む態度
である。
また、第三項目の「主体的云々」については、2014年に出されたいわゆる「高大接続改革答申」では、「主体性・多様性・協働性」と言い換えられている。
ちなみにこの三要素は、並列のものではなく、「基礎的な知識や技能」(いわゆる基礎学力)の上に「思考力・判断力・表現力」を置き、さらにその上に「主体性・多様性・協働性」を置いている。
大学入試改革は、私の理解では当初、センター試験に代わる共通テスト(仮称)で「基礎的な知識や技能」を問い、「思考力・判断力・表現力」あるいは「主体性・多様性・協働性」については各大学の個別試験に任せるという方向だったと思う。
しかしながら、実際の改革にあたっては、共通テストの中に思考力を測る要素が入り、どうもそこから混迷が始まったように思う。新聞などの報道では、この共通テストの制度設計が定まらず、こちらばかりが話題となっている。いずれ、この件も本連載で扱いたいと考えているが、ここでは先を急ごう。
共通テストのあとに各大学が課す独自の入試では、先に掲げた「思考力・判断力・表現力」あるいは「主体性・多様性・協働性」を測るような試験をするように文科省は要請している。また、「大学に入ってからの学びの伸びしろ」いわゆる潜在的学習能力を測るようにも要請している。
しかし、そもそもこれは無茶ぶりではないか。「そんなことが分かるなら、高校でやっておいてくれよ」という話なのだが、文科省というのは現場に無茶ぶりをすることで自分の権威を高めようとするような習性があるので、これはまぁ仕方がない。
さて、いったい、そのような新しい大学入試とはどのようなものなのだろうか? 「主体性・多様性・協働性」を問うというが、これはどういった意味だろう。多様性とは、多様性に対する理解のことなのか、あるいは入試自体に多様性をもたせよということなのか? 主体性と協働性は、時に相反することもあるだろうが、それを同時に見るような試験が可能なのか?
批判をするのは、あるいはツッコミを入れるのはたやすいが、愚痴を言っていても始まらない。私たち大学人は、真摯に、この新制度入試に取り組まなくてはならない。先に私は「無茶ぶり」と書いたが、しかし、この入試改革には、もちろん善きところも多数あるのだ。その点はあとで記すとして、ともかく今は、私が考え、実践してきた未来の大学入試を紹介していきたい。
私は8年ほど前から、香川県善通寺にある四国学院大学の客員教授、学長特別補佐を務めている。
善通寺市は人口約3万2千人。言わずと知れた総本山善通寺の門前町である。
四国学院大学は戦後にできたプロテスタント系の大学である。弘法大師空海の生地に、ミッション系の大学があるところが面白い。全学生数は約1200人。地方都市の典型的な小規模私立大学である。
香川県自体、1990年代から人口減少が始まっており、私立大学の経営はどこも厳しい。総理の友達ででもないかぎり、ほうっておけば潰れていく運命にある。何か特色を持たせなければ生き残りは難しい。
四国学院大学は、2010年から、全国でも珍しいメジャー制度を導入した。もともとリベラルアーツを基本とした大学だったのだが、10年よりこれを徹底し、一年次の教養教育を経て、2年次からは学部を越えて、どのメジャー(専攻)を選ぶこともできる制度を開始した。
さらに2011年からは、このメジャーの中に、中四国地区唯一の演劇コースを開設した。私はその制度設計を任される形で、この大学に呼ばれた。現在、この演劇コースは、中四国地区全域はもちろんのこと、青森、福島、佐賀、沖縄など全国から学生を集める人気コースに育っている。
そして、2016年度から、大学入試改革を先取りする形で、新制度入試の前倒し実施を行っている。初年度は指定校推薦を対象に、翌年度からは、地方会場の受験者などを除く大半の推薦入試を、この新制度入試(四国学院大学では綜合選考と呼んでいる)で選考している。
次回、これまでの問題を紹介する。(中編は9月25日に公開予定)
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