「演劇」を活用し、さまざまなコミュニケーションで教育活動を行ってきた劇作家で演出家の平田オリザさん。大学入試改革にも携わっている平田さんは、演劇を学ぶ初の国公立大として、2021年度に開校する予定の国際観光芸術専門職大学(仮称)の学長就任も決まっています。連載第2回目は文科省の政策に対して、ある提言をされています。
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私が教育政策・文化政策全般をお手伝いしている兵庫県豊岡市は、昨年度から演劇的手法を使ったコミュニケーション教育を、市内39の小中学校で全校実施している。この実施までに私たちは3年の歳月をかけた。

まず初年度は5つのモデル校を定め、私がそこで実際の授業を行うとともに、夏休みの教員研修会などでもコミュニケーション教育に焦点を当て、一般の教員が無理なく演劇教育が行えるように準備を進めてきた。

2年次には、私がモデル授業を続けるとともに、教員の側にも実践を試みていただいた。

小中連携の完成年度でもあった3年目の昨年度は、すべての学校で、小学6年生と中学1年生が毎学期、演劇の授業を体験することになった。

市教委の狙いの一つは、単に演劇教育を導入するだけではなく、この手法を全教員が学ぶことで、教員自身の授業力向上、さらには若手教員の授業の質向上へのモチベーションそのものを上げていこうというものだった。

豊岡市の小中連携は、このコミュニケーション教育と、ふるさと教育、英語教育を三本柱としている。市内全中学校にALT(外国語指導助手)を配置するほか、幼保からネイティブの英語に触れる機会を多く用意している。

 

しかし私たちは「豊岡の英語教育は、文科省が謳うようなグローバル教育ではない」と公言している。豊岡の英語教育は、世界で活躍する人材、世界で戦う人材を育成するための教育ではない。豊岡そのものを国際化するための教育だ。

たとえば、先に掲げた「ふるさと教育」「コミュニケーション教育」「英語教育」を連動させて、子どもたちが習った英単語を織り交ぜながら外国人観光客を道案内するといった授業プログラムも実施している。ここでは、正しい英語を使うことが目的ではなく、どうすれば海外から来てくれた観光客に自分の気持ちが伝えられるかの工夫が評価される。

このような先進的な取り組みが、豊岡市において急速に受け入れられたのには、一つの背景がある。

 
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