「演劇」を活用し、さまざまなコミュニケーションで教育活動を行ってきた劇作家で演出家の平田オリザさん。大学入試改革にも携わっている平田さんは、演劇を学ぶ初の国公立大として、2021年度に開校する予定の国際観光芸術専門職大学(仮称)の学長就任も決まっています。連載「22世紀を見る君たちへ」では、これまで平田さんが「教育」について考え、まとめたものをこれから約一年にわたってお届けします。
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受験生は、最初に、演劇コースの教員によるアイスブレークのための簡単なコミュニケーションゲームを経験する。そのあとに、以下のようなプリントが配られる。

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これから皆さんには、別室に移ってディスカッションドラマを創ってもらいます。ディスカッションドラマというのは、文字通り、ディスカッション(議論)の様子をドラマにしたものです。人の出入りや動きなどは、あまり必要ありません。何についてのディスカッションをするかは、別室に移ってから問題用紙が渡されます。
これは発表の成果を問う試験ではありません。演技のうまい学生が得をするような試験ではありません。ただし、発表についても、あとのインタビューで質問されると思いますので、発表もベストを尽くして行ってください。
グループワークの時間は60分です。部屋には筆記用具が用意してあります。荷物は置いて、移動してください。グループワークの時も発表の時も、部屋の中にある、机や椅子は自由に使ってかまいません。審査する教員のことは気にせずに、グループワークに集中してください。
部屋にあるパソコンは、情報検索のみに利用してください。このパソコンで外部とメールのやりとりをすることはできません。

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ここで6人ないし7人のグループが発表され、別室への移動となる。試験会場では、次のようなプリントが配られる。

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問題①

以下の題材で、ディスカッションドラマ(討論劇)を創りなさい。

2030年、日本の財政状況はさらに悪化し、ついに債務不履行(デフォルト)を宣言する直前まで進みました。日本国政府は国際通貨基金(IMF)からの支援を受け入れることとなり、その条件として厳しい財政健全化策をとることとなります。
国際通貨基金からの要請の一つに、多大な維持費がかかる本四架橋のうち二本を廃止し、一本だけを残すという提案がありました。
関係各県を代表して、どの橋を残すかを議論するディスカッションドラマを創りなさい。登場する県は、香川県、徳島県、愛媛県、兵庫県、岡山県、広島県になります(6人の班の場合は、県を一つ減らしてください)。他に議長役を1人登場させてください。
各県の代表は自分の県に関係する橋を残すための意見を主張すると共に、他の県、他の橋について的確な攻撃を加えてください。その攻撃に対して、反論も考えてください。また議論の最中に、妥協案を提案する県などがあってもかまいません。
最後に結論を出す必要はありません。誰が、どのタイミングで発言すると面白くなるかをよく考えて、発言の順番を決めてください。
発表の時間は、8分から15分としてください。発表の際には、部屋にある画用紙を使って名札を作り、各県の名前を書いてください。

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問題②

以下の題材で、ディスカッションドラマ(討論劇)を創りなさい。

先日、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が、長い交渉の末、大筋合意に達しました。しかし、この協定に関しては、国内にも賛否両論、様々な議論があります。TPPに関して、それぞれの利害関係者を代表する登場人物を考え、この協定を巡るディスカッションドラマを創りなさい。登場する人物は、たとえば、
・TPP反対の農業関係者
・TPPに条件付き賛成の農業関係者
・TPP賛成の企業
・TPP反対の企業
・TPPに条件付き賛成の企業(複数でも可)
・アメリカ人、オーストラリア人、ベトナム人など各国の人
・その他
他に議長役を、必ず一人、登場させてください。
(以下、問題①とほぼ同じ)

 
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