脳科学コメンテイター・感性アナリストの黒川伊保子さんの新刊『妻のトリセツ』。脳科学の立場から女性脳の仕組みを前提に妻の不機嫌や怒りの理由を解説し、夫側からの対策をまとめた“妻の取扱説明書”ですが、妻にとっても参考になる知識がたくさん詰まっています。今回ご紹介するのは、夫との噛み合わない会話について。妻は話を聞いてほしいだけなのに、夫の無理解っぷりに凹んだことはありませんか?
 

男性脳は「問題解決」
女性脳は「共感」の大きな差


カフェで聞こえてきた、ある女性同士の会話です。

「駅の階段でつまずいて転びそうになったの!」
「え〜怖い! 先の細いパンプスだと、引っかかるよね〜」
「わかるわ〜、あぶないよね〜」

 

一人が切り出した話について、他の女性たちが口々に同意したり、他の例を出してきたり……、というのは、女性同士の会話ではよくある話。しかも、いつの間にか話題が変わっていて、別の話で盛り上がったりするものです。

でも、実は男性にはこういう会話が全く理解できないというのです。なぜなら、男性にとって会話の主たる目的は「問題解決」。「階段でつまずいて、転んで怪我をしてしまった」というのならまだしも、この会話では「転びそうになった」だけ。オチのない会話は苦痛でしかなく、「問題解決」を図ろうとする男性なら、「かかとの高い、先の細い靴を履かなければいい」とアドバイスの一つもしたくなる。

でも、その男性が、さきほどの女性たちの間に入ってそのアドバイスをしたところで、「アドバイスありがとう!」と感謝されることはまずありません。男性脳にとっては意味のない会話でも、女性脳にとってはとても重要な意味を持つからです。女性脳の大きな特徴の一つに、共感欲求が非常に高いというものがあります。「わかる、わかる」と誰かに共感してもらえることで、過剰なストレス信号が沈静化するという機能があるというのです。逆に共感が得られないと一気にテンションが下がり、免疫力も下がってしまいます。

しかも、他人の体験であっても、その出来事に共感して「危なかった」「怖かった」などといった“感情の見出し”がつけば、女性は自分の体験と同じように扱えるようになるというのです。

さきほどの「階段でつまずいて、転びそうになって怖かった」話に別の女性が共感すれば、もしも自分が同じようなパンプスを履いて駅の階段を下りる時には、無意識のうちに注意深くなる。「無駄話」のようでいて、“とっさの知恵”に変えてしまうというのですから、女性にとっても驚きの機能です。

お互いが自分の身に起こったささやかなことをしゃべりあうことで盛大に共感し合うのは、“知のプレゼント”を送りあっているようなもの。女性たちはそうした“知のプレゼント”を“とっさの知恵”に変えて脳にしまい込んでいるのです。

 
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