最近の子育てトレンド「脳育て」。脳の成長は分野によって黄金期があり、その時期にあった刺激を脳に与えていくことが大切です。それでは具体的に、どういった方法で脳は刺激されるのか、脳医学者の瀧靖之先生にうかがっていきます。
―子どもを賢く育てるために「好奇心」が大切だというお話がありますが、「好奇心」は脳にどういった影響を与えるのでしょうか。
瀧:わくわく、ドキドキと好奇心から心が動く経験は、脳によい刺激を与えます。その刺激によって、神経回路が繋がり、整い、神経細胞のネットワークが構築されます。
そして神経回路が多く密に張り巡らされているほど、情報の伝達や処理が早く深くスムーズになります。それが、よく働く賢い脳です。
脳内では、感情と記憶を司る分野はきわめて近いところにあります。だから、楽しかったり驚いたり心が動かされる経験の方が、圧倒的に頭に入りやすく、定着しやすいのです。
「好奇心」がなければ「賢い脳」にはなり得ないと思います。
―「好奇心」って年齢があがるにつれて減っていく印象があります。
瀧:そうかもしれませんね。しかし、大人社会にも好奇心旺盛な方がたくさんいらっしゃいます。
私は第一線で研究を続ける学者や、企業のトップなどにお会いするようになって、その多くの方に共通点があることに気づきました。
皆さん本当に人生を楽しんでいらっしゃる。まさに好奇心旺盛に、お仕事だけでなく、世の中に常に関心を持って日々を謳歌している方が多い。そういう方は、幼少期の過ごし方にも共通点があったのです。
―第一線で活躍されている方の幼少期、とても興味があります。どんな共通点でしょうか。
瀧:皆さん子どもの頃に何かにハマった、熱中体験をお持ちです。例えば、電車、昆虫、スポーツなどジャンルは様々ですが、今現在も趣味として没頭されていて、その話が大変面白い。
―幼少期に熱中体験を持ったことが、大人になってから第一線で活躍できる能力を育むのでしょうか。
瀧:私は、幼少期の熱中体験が脳の成長に非常に重要なのではないかと考えています。
以前、教育系雑誌の企画で東大生を対象にアンケートをとった際にも、幼少期の熱中体験について尋ねてみました。その結果、94%が小学生時代に何かにハマった、熱中体験を持っていたのです。
ひとつのことにハマり、突き詰めていく過程では、試行錯誤を経験しながら上達し、情報に詳しく、強くなっていきますよね。脳内の神経回路も、同じように発達していくと私は考えています。それが脳の、賢さだと思うのです。
東大生の場合は、それぞれの熱中体験が学びの力となって、勉強ができる脳になったのでしょう。東大に入るような勉強ができると言われる子どもの多くは、小学生時代に学ぶことや知ることが楽しい、脳になっていたのでしょう。
―しかし一体、どうしたら熱中体験が出来るのでしょうか。熱中体験がよいとわかっても、親は子どもに何をしてあげたら良いのか……。
瀧:そうですよね。そのヒントとなるデータがあります。同じ東大生の小学生時代について聞いたものです。
実に87%の家に「図鑑があった」というアンケート結果が出ました。また、リビングに本棚があったと答えた割合も高く、その結果は、本に親しみ、図鑑できちんと調べ物をしている家庭環境を想像させます。「図鑑」が子どもの脳を育てるツールとして最も適していると私は考えていたので、この質問をしたのですが、私の考えを裏付ける結果に驚きました。
「図鑑」は好奇心を刺激し、調べて知識にするだけでなく、実際に出かけてリアルな体験をすることでも、脳への大きな刺激になります。
結局、小さな子どもに好奇心を磨く機会をどれだけ与えてあげられるかは、親次第のところが多いと、私は思います。良いきっかけさえ与えてあげると、子どもはひとりでに熱中体験につなげていくのではないでしょうか。その際に「図鑑」はとてもいいツールだと、私は考えています。読み方や使い方次第で、子どもたちの脳はぐんぐん育っていくのです。
―その図鑑の読み方使い方については、著書の『「賢い子」は図鑑で育てる』に詳しく載っていましたね。もう一度じっくり読んでみます。
好奇心を刺激され、幼い頃に熱中体験を持った子どもがどういう風に育っていくのか。インタビューの続きは、次回。先生が考える、現代の子どもたちが歩んでいく未来の予想図も興味深い内容です。お楽しみに。
『16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える究極の子育て 『賢い子』は図鑑で育てる』
著者 瀧 靖之 講談社 1540円
図鑑ひとつで、子どもの『脳』は賢く育つ! 楽しみながら、子どもの能力を最大限に伸ばすテクニックが満載。「のびのびしていても、子どもが賢く育つ」魔法のような子育て法です。
イラストレーター/みついしふみこ
カメラマン/米沢耕(講談社写真部)
・第1回「脳科学者が教える、子供の「脳育て」の方法と適した年齢は?」はこちら>>
・第3回「「勉強しなさい!」と言わなくていい子どもに育てるための方法」はこちら>>
瀧 靖之
東北大学加齢医学研究所教授。医師。医学博士。1児の父。脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達、加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍。最新の脳研究と自身の子育ての経験をふまえた「科学的な子育て法」を提案している。