インスタ読書会、2019年最初のテーマは『北欧ミステリー』。今回はバタやんにとって初となる“ソロ語り”にも挑戦しました! 当日見逃してしまった方、また内容をおさらいしたい方のために、トークの一部をテキストでお届けします。

北欧スタイルでお届け。


そもそも北欧ってどこ? 北欧ミステリーってどんな??


世界地図を前に「北欧はどこでしょう?」と聞かれたら、みなさん答えられますか? 北欧ミステリーとはフィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、アイスランドの5カ国で出版されたミステリーを指します。

ホワイトボードを使って解説。

バタやん:以前、タレントのLiLiCoさんにお話を伺ったときに、スウェーデン出身の彼女は“北欧”という呼び方に対して「それぞれ違った文化や風土があるのだから、簡単にひと括りにしてほしくない」と仰っていました。たしかにそうですよね。

ではなぜこの五カ国がまとめて「北欧ミステリー」と呼ばれるかというと、これは「ガラスの鍵賞」の存在が大きいんです。1992年にスカンジナビア推理作家協会が設立した、ノルウェー、デンマーク、スウェーデンの優れたミステリー作品に贈られる賞で、のちに対象国がフィンランドとアイスランドまで拡げられました。北欧ミステリーに入門するならこの受賞作品から選ぶのがおすすめです。“ガラかめ”ならぬ“ガラかぎ”で覚えてくださいね(笑)。


北欧ミステリー、とっつきにくい3つの理由


“今は北欧ミステリーがアツい!”と何年かに一度いわれるものの、実際にはそこまで大きなブームになってはいないのが現状。これってなぜなんでしょう?

バタやん:その理由は、まず第一に〈暗い〉。私は昨年冬、初めてフィンランドの首都ヘルシンキを訪れたのですが、日照時間がとても短くて一日中暗いんですね。そのトーンは文学にも反映されていて、アメリカなどの作品と比べるとどうしても暗い印象があります。そこも良さでもあるんですけど。

ヘルシンキの12月。午後3時くらいでもすでに夜のよう。


2番目の理由は〈高い〉。文庫でも1300円くらいすることも。一冊の本が出版されるまでに、日本の作品なら「出版社」と「作家」というシンプルな関係で成り立つのですが、翻訳本の場合はそこに「翻訳者」が入り、さらに作家の「エージェント」が加わる場合もある。とくに北欧ものは原語から日本語への翻訳者が英語ほど多くなく、英語訳からさらに日本語に訳す“重訳”という方法が取られることも。こうした “関わる人の多さ”と”初版部数の少なさ”が価格にも跳ね返ってしまうんです。

アーナルデュル・インドリダソンの『湿地』『緑衣の女』


そして3つ目の理由が〈覚えられない〉(笑)。英語圏と違って、北欧の名前はそれだけでは性別はおろか、それが名前なのか地名なのかも分からない場合も。例えば、『湿地』『緑衣の女』でガラスの鍵賞を2年連続で受賞したアイスランドの作家、彼の名は“アーナルデュル・インドリダソン”。彼の作品は何冊も読んでいるのに、いまだにすらすら言えません(笑)。こんなふうに作者も登場人物の名前すらなかなか覚えられず、最後まで読み切るのも大変なんです。

そんなこんなで、日本語に翻訳されている作品もなかなか増えない。これはもうたくさんの人に読んでもらって盛り上げるしかない! ということで、ここからは、それでも読むべき北欧ミステリーの魅力をたっぷり紹介していきたいと思います!


イチ押しは、警察小説の金字塔と言われる名シリーズ


いよいよバタやんのおすすめ作品をご紹介。イチ押しは、年末のブログでも取り上げていた、「刑事マルティン・ベック」シリーズ

 

バタやん:このシリーズのすごいところ、まず1つめは〈男女2人で書いている〉点です。作者のマイ・シューヴァルとペール・ヴァールーは1つの物語を何十もの章に分けて、犯人と格闘するシーンは僕が、事件の真相が明かされるシーンは私が、というふうに、それぞれ得意なほうを担当するそうなんです。そして完成した作品は、どちらがどこを書いたのか本人たちにもわからない、それほど2人の文章がミックスされているのだとか。私は女性作家さんの作品が好きで、女同士の会話のシーンなどではよく「やっぱり女性作家さんだと上手いな〜」なんて思うけれど、そんなのはただの先入観かもしれない、なんてことを思わされます。

もう一つは〈美女もハンサムも出てこない〉ところ。シリーズ第1作『ロセアンナ』が刊行されたのは1965年なのですが、当時はかの“007”シリーズが大ヒット。そんなご時世ですから、欧米の小説はたいていスパイか探偵もので、ジェームズ・ボンドのような圧倒的なヒーローと絶世の美女の登場がお決まりだったんですね。

なのに、このシリーズの主人公であるマルティン・ベックはサエない中年のおじさんで、体調もよくなさそうだし、奥さんともあんまりうまくいってない(笑)。そして事件は、彼一人の力ではなくチームの力によって解決されます。この作品の大ヒットをきっかけに、当時はまだマイナーだった警察小説が一気に人気になったりもしました! ちなみについ最近、原語からの直訳版が年1冊のペースで刊行されていたのですが、シリーズの途中で終了してしまって。せっかく集めてたのに、角川文庫さん……ううう(泣)。


ここをおさえれば失敗ナシ! 翻訳小説の見つけ方


最後に、翻訳小説で「正直、あんまりだった……」とならないための3つのポイントを伝授。これは北欧ミステリー以外にも使えますよ!

バタやん:一つ目は〈文庫で買う〉。こんなこと出版社内で言っていいのかわからないですが(笑)。なぜかというと、文庫には作者あとがき、訳者あとがき、解説が付いていることも多くお得! 単行本だと本編以外は謝辞だけという場合も多いのです。謝辞なんて、正直いって読者にはあまり意味がないですから(笑)。

そしてそこから繋がる2つめの理由が〈後ろから読む〉。読んでほしいのは物語の結末ではなくて、訳者あとがきです。原文で読んだ読者の一人である訳者が、この作品のここに感動したとか、どこが難しかったとか、日本とはこういった文化の違いがあるとか、それを理由に敢えてこの部分は訳には入れなかった、とか。そういったことを書いてくれているので、先に読んだほうが作品の背景が分かるし、物語に入り込めるんです。あわせて解説も読んでおけば、当時の時代背景や社会情勢などがより分かると思います。

そして最後の3つめが〈訳者で選ぶ〉です。過去に翻訳小説に挑戦したけど最後まで読めなかった、という経験があるなら、それは訳が合わなかったからかも。会話のテンションや語尾の表現とか、訳者にもそれぞれ個性があるので。1冊最後まで読み通せたら、その訳者の別の作品もぜひ読んでみてください。

「ここから一人でも北欧ミステリーにハマってくれれば、他の作品も邦訳してもらえる可能性が上がる……」と、北欧ミステリーの浸透に闘志を燃やすバタやんでした(笑)。これからも面白い作品をどんどん紹介していきますね!

次回のインスタ読者会は1月22日(火)20時〜。
お題は「女ともだち」がテーマの小説について語ろう!です。
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どうぞお見逃しなく!


取材・文/山崎恵