日本と欧州でEPA(経済連携協定)が結ばれたことで、欧州産のワインが続々と値下げされています。ワインの関税については即時撤廃されるので効果は絶大です。

 

筆者もワインが大好きなのですが、ひと昔前までは、美味しいワインを飲むためには、フランス・ワインに代表される高級ワインを高いお金を出して買う必要があり、お財布には厳しいことばかりでした。しかし、最近ではワインの製法がグローバルに汎用化されたことで、世界各地で安くて美味しいワインがたくさん作られています。同レベルの味を格安で楽しめるというのは本当にいい時代ですし、これもグローバル化の恩恵といってよいでしょう。

しかしながら、どれだけコスト・パフォーマンスの高いワインが揃うようになっても、フランス・ワインのブランド力は相変わらずです。ではなぜフランスのワインだけがこうした突出したブランド力を身につけることができたのでしょうか。 

そこにはある秘密が存在しているのですが、この話は、私たち個人のセルフブランディングという観点からも大いに参考になりそうです。

フランス・ワインがこれだけのブランド力を得ることが出来た最大の要因は、味という「感性」が支配すると思われていた分野においても、分かりやすい形で体系化と客観化を行ったことです。

フランス政府は自国産のワインに対して、厳しい規制を加えており、畑の場所や醸造方法、そしてラベル(ワインの世界ではエチケットと呼びます)の表記に至るまで細かいルールがあります。少し慣れてくると、ワインのラベルをちょっと見ただけで、どの場所で採れた、何という種類のぶどうを使っていて、どのような味がするのか、おおよそ分かるようになってきます。

味や香りについても同様で、どの香りを何と表現するのかについてもある程度の決まり事があります。さらには、どのような特徴を持つワインを「美味しい」と定義するのかについても、一定の基準が出来上がっています。つまりフランスのワインに限って言えば、「私が美味しいと思ったから、このワインは美味しい」「いや、私にとっては美味しくない」といった感覚的な話にはならない仕組みになっているのです。

このためフランスのワインに関しては、議論が発散することがありません。新しい試みが行われる場合でも、従来のルールに則って多くの人が評価を加えるので、感情的な議論にはなりにくいという特徴があります。

こうした仕組みは見方によっては、少々、堅苦しいですし、一連の文化をあまり好まない人もいます。筆者も時々「もっと自由でもいいのに」と思うことがあります。

しかし、味や香りについて徹底的に体系化・客観化したおかげで、世界のワイン業界は、すべてフランス・ワインを基準に物事を判断するようになりました。つまりフランス・ワインはビジネス用語でいうところの、デファクト・スタンダード(事実上の標準)というわけです。

 
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