あらすじ
金栗四三(中村勘九郎)は、嘉納治五郎(役所広司)が主催するオリンピック選手を見出すための大運動会のマラソン競技に参加、あいにくの悪天候・雨にも負けず、並み居る健脚を追い抜いて一位、世界記録を打ち立てる。
古典を現代に再生させる試み
マラソン大会の天気が、雨が降ったり晴れたりは資料に記述のあるエピソードだそうで、それをしっかり再現していたんですね。
「時に明治44年11月19日、羽田の空は鉛色」というナレーション(森山未來)は、雨が劇的に描かれている司馬遼太郎の「関ヶ原」みたいでワクワクします。これまでの大河ドラマっぽくないことが賛否両論を呼んでいる「いだてん」ではありますが、こういうところは伝統もリスペクトしていると思うのです。
これがきっかけで日本人が初めてオリンピックに参加することになる、日本人とオリンピックとの扉を開けた羽田のマラソン大会の顛末を、参加した清さん(峯田和伸)から聞いた話から、昭和の志ん生(ビートたけし)が落語の「芝浜」をすこし作り変えて寄席でやると、弟子(荒川良々)が「古典をあんなふうにいじっちゃ……」と咎めます。でも、古典をこんなふうにして現代に再生させることもあっていいのではないでしょうか。
落語の世界のみならず、主演の中村勘九郎さんが活動する歌舞伎の世界でも、伝統の継承と同時に新しい時代の歌舞伎の模索が行われています。近年だと大人気漫画の『ONE PIECE』、今年の暮れにはアニメの『風の谷のナウシカ』が歌舞伎化されます。ナウシカのクシャナ役は、勘九郎さんの弟・七之助さんです。
宮藤官九郎さんは、2009年に歌舞伎座で『大江戸りびんぐでっど』というオリジナル歌舞伎の脚本を書きました。いま大流行のゾンビものです。これは勘九郎のお父様、故・中村勘三郎さんが当時、率先してやっていた現代演劇とのコラボレーションのひとつであり、なかでもとりわけアグレッシブな作品でした。だってゾンビものですよ、そして、音楽は向井秀徳ですよ。賛否両論は「いだてん」以上だったかもしれません。でもそれは紐解いていけば、歌舞伎の怪談ものや世話物などとも通じていてとてもおもしろいものだったのです。
これには、勘九郎さんも、四三の兄・実次役の中村獅童さんも出演し、生き生きと演じていました。勘三郎さんが情熱を傾けて実現にこぎつけた作品で、ほかにもたくさんの新しい試みを実現していきました。それがドラマの嘉納治五郎や金栗四三たちとなんだかかぶってしまうのです。
山下敦弘監督起用の意図
第五話の最後で、四三が、「世界を意識して!」とカメラマン(山下敦弘)に言われながら写真を撮ります。演出意図は「この台詞を特徴づけたかったことと、四三にポーズをつけるにあたって、映画監督がやるとリアルになるかなと思い、力の抜けたユーモアのある作品で知られる山下敦弘監督(森山未來主演『苦役列車』監督、ドラマ『モテキ』には出演もしている)にお願いしました」とのこと。勘九郎さんもニューヨークやドイツで歌舞伎を上演しているので、「世界」目線に堂々たる説得力を感じました。平成中村座のニューヨーク公演も勘三郎さんが切り開いた大仕事でありました。
「大江戸りびんぐでっど」は“シネマ歌舞伎”という歌舞伎公演を撮影して映画のように上映する企画としてDVD 化されているので、未見の方はぜひ、見ていただきたいです。
歌舞伎が映画として上映されることだって昔は考えられないことだったでしょう。映像化されても引きで舞台の全景を延々見せられて、退屈してしまうことが多かったですが、いまや、映像技術の発展に伴い、舞台もあらゆる角度から撮影されて、本番では気づかなかった俳優の表情が映像でわかるなど、映像化もいいものだと思います。
あらゆる角度から、ということで、「いだてん」第五話では、ストックホルムオリンピックで国旗をもっている四三の写真を何度か出していましたが、そのとき、別のカメラで撮った写真では
三島さまこと三島弥彦(生田斗真)が映っているところが紹介されました。
大運動会で飛び入り参加した三島が、その能力を発揮し、100、400、800m競争で一位になり、彼もまたオリンピックに参加することになります。やたらと目立っていました。じつは最初からスパイクを履いていたところもニクイ。
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