「演劇」を活用し、さまざまなコミュニケーションで教育活動を行ってきた劇作家で演出家の平田オリザさん。大学入試改革にも携わっている平田さんは、演劇を学ぶ初の国公立大として、2021年度に開校する予定の国際観光芸術専門職大学(仮称)の学長就任も決まっています。連載「22世紀を見る君たちへ」では、これまで平田さんが「教育」について考え、まとめたものをこれから約一年にわたってお届けします。
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前回、岡山県の奈義町を事例として取り上げ、手厚い子育て支援と充実した教育施策で、合計特殊出生率の全国平均1.42を大きく上回る、2.81にまで引き上げたことを紹介した。
奈義町は、決して特殊な事例ではなく、このような文化や教育施策によって人口減少を緩和、あるいは克服しようとしている自治体が少なからず出てきている。

 

例えば北海道の東川町。
旭川市の東隣、大雪山系、北海道最高峰の旭岳の麓に位置するこの町は、1950年(昭和25年)の一万人台を頂点に、他の小さな町村と同様、長期にわたる人口減少に苦しみ、90年代には6000人台にまで落ち込んだ。しかし、そこからほぼV字回復し、現在は8000人台にまで達している。
この町は、30年間、高校生の写真コンクール「写真甲子園」などの写真文化を守ってきた。いまは「写真文化首都」を宣言し、写真によって世界とつながっている。
人口増のからくりは、奈義町とほぼ同じだ。充実した子育て支援や教育政策と文化的なイメージ。東川町は家具の町でもあるので、家具職人の移住も増えている。
こういった自治体が、人口一万人以下の町を中心に少しずつ出てきているのだ。

入試の話に戻る。
前回は奈義町の職員採用試験を紹介したが、私が文化政策担当参与を務めている兵庫県豊岡市でも、2017年から演劇的手法などを使ったグループワークの試験を導入している。
例えば、初年度の試験では、以下のような出題を行った。

〈課題〉
これから皆さんにディスカッションドラマを創ってもらいます。ディスカッションドラマというのは、文字通り、ディスカッション(議論)の様子をドラマにしたものです。

人の出入りや動きなどは、あまり必要ありません。
これは発表の成果を問う試験ではありません。演技のうまい受験者が得をするような試験ではありません。
ただし、発表についても、あとのインタビュー(面接)で質問されると思いますので、最後までベストを尽くして行ってください。
グループワークの時間は90分です。
グループワークの時も発表の時も、部屋の中にあるホワイトボード、机や椅子は自由に使ってかまいません。
審査員のことは、できるだけ気にせずグループワークに集中してください。
部屋にあるパソコンは、情報検索にのみ利用してください。このパソコンで外部とメールのやりとりをすることはできません。

〈問題〉
以下の題材で、ディスカッションドラマ(討論劇)を創りなさい。

豊岡市は2005年、一市五町が合併してできた自治体です。しかしながら、2030年、旧城崎町地区の住民が豊岡市からの独立を希望し、自主的な住民投票では僅差ながら独立推進派が勝利しました。投票率は60%を超えていましたが、この住民投票に法的拘束力はありません。
豊岡市役所では、この問題を扱うための諮問委員会を設置することにしました。

・どのようなメンバーが必要かを考えてください。
・メンバーの中には、市役所側の人間、城崎独立派も入れてください。

その上で、旧城崎町の独立問題についてディスカッションドラマを創ってください。
ディスカッションドラマですので、ディスカッションをして自分の意見を通すことが目的ではありません。各自が役割を分担し、どうすれば議論が盛り上がるかを考えて、最後に、10分から15分のディスカッションドラマを創っていただきます。
発表の際には、それぞれの立場で、それぞれが推す案をもって発言をしてください。
市内のどんな立場の人が、どのような案を出すかをよく考えてください。

〈参考〉
それぞれの案に一長一短があればあるほど議論は盛り上がります。
さらに、誰が、どの順番で、どのような発言をすれば議論が盛り上がるかを考えてください。議論がかみ合うだけが目的ではありません。わざと脱線させたり、話の腰を折ったり、その脱線にヒントがあったりするかもしれません。
時間配分や役割分担を、しっかり考えてください。

同じく、一昨年出した、もう一問は以下の通り(前提となる詳細は省略する)。

〈課題〉
2025年、豊岡市で繁殖したコウノトリが増えすぎ、ついに近くの新温泉町で登校中の児童を襲うという事件が発生しました。このままコウノトリの繁殖を続けるかどうか、豊岡市役所内でも議論が起き、対策の諮問委員会を設置することとなりました。
この問題についてのステークホルダーを洗い出して、ディスカッションドラマを創りなさい。登場人物を決定する際には、豊岡市の旧一市五町のこの問題に対する温度差も含めて表現してください。

〈参考〉
登場人物を考える際には、そのキャラクターも考えてください。頑固な人、優柔不断な人、協調性のある人。議論がうまくいく方法ではなく、どうしてうまくいかないのかを考えましょう。

あるいは、昨年は、以下の二問を出題した。
受験者数の関係から試験は二日に分けて行われるので、毎年、最低二問は問題を考えなくてはならない。

 
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