夫のモラルハラスメントは、自己愛性パーソナリティー障害によるものかもしれない……。もしそうだったら、離婚の際、どのように影響してくるのでしょう? 離婚問題専門の弁護士・原口未緒さんに教えてもらいました。
 

 

peromarchさんからの質問

Q. 自己愛が強すぎる夫と離婚したいが、 話し合いにもならない……。  


夫婦で一緒に仕事をしているのですが、夫の自己愛の強さから従業員が夫とは一緒に働きたくないとどんどん辞めていきます。新しい方が来られても同じ理由で辞めていってしまいます。私が産休に入り夫のフォローができなくなると従業員はゼロになってしまいました。夫は「産後2週間で仕事復帰しているタレントもいるから、産んだらすぐ復帰してほしい」と言い出す始末。子供が生まれたら変わるかもしれないと少し期待していたのですが、家では泣きじゃくる子供を無視してスマホゲーム。そのくせ誰かがいるときは積極的に抱いて世話しているアピールをします。夫の親戚に相談したところ、自己愛性パーソナリティー障害の可能性が高いから専門家に診てもらったほうが良いのではないかとアドバイスをいただきました。ネットや本で調べていると、自己愛性パーソナリティー障害は難治・子供に悪影響があるとあり、今までにも堕胎させられたり、私の貯金を使い込まれたり、ひどいことをされてきたので離婚を考えています。が、パーソナリティー障害のためか、話し合いには応じず逆切れする始末。このまま勝手に子供と二人で家を出てしまうほうが良いのではないかとも思って困っています。ただ私は子供のころに虐待されていたので実家にも戻りたくありません。こんな私にアドバイスをお願いいたします。(33歳)


弁護士 原口未緒さんの回答

A. 話し合いにならないなら、まず家を出てしまいましょう。
ただしそこで立ちはだかるのが“共依存の壁”です……。


なるほど、夫が自己愛制パーソナリティ障害の可能性があるとのことでしたら、話し合いをするのは難しいかと思われます。おっしゃる通り、子どもさんと家を出てしまわれたほうが良いでしょう。

最近は私のところに相談に来られる方の中にも、「夫が自己愛制パーソナリティ障害のようで、話が全く噛み合ず離婚話が進まない」という方が増えてきています。その名の通り、相手は自己愛が強いわけですから、自分が正しいと信じて疑いもしません。そのため相手の話に耳を貸すという発想はなく、永遠に話が噛み合ないのです。そのような相手と話し合おうとしても疲れるだけ。果ては、「離婚したいと思っている自分のほうが悪いのかも?」と思い始める人も少なくありません。ですからperomarchさんも家を出て行って、弁護士などの代理人に、離婚協議や養育費、財産分与などの交渉を進めてもらうのが、精神的ダメージが少ないと思われます。もちろんご自分で離婚調停を申し立て、その中で話をしていかれても良いと思います。

 

まずは、家を出て行くという前提でperomarchさんがすべきことをお伝えさせていただきますね。一番大事なのは、お仕事を探されることです。とは言いましても、夫と同居の状態でお仕事を探されるのは難しいことと思います。ですから、当面の生活資金として家にあるお金をできるだけ持って出られてください。夫名義のものでもかまいませんから、通帳やキャッシュカードも持ち出して、すぐに現金化することです。持ち出したお金は、離婚の財産分与の際に清算されますから、後で夫に「返せ」と要求される心配はありません。

お金を持ち出すことができない場合は、いったんDVシェルターや母子生活支援施設などに入られ、その間に仕事を見つけるなど生活基盤を整えられるのが良いかと思います。その際は、事前に市や区の女性相談センターや警察にも相談をされておくことをお勧めします。このようなタイプの夫は、ストーカー化することが少なくありません。身を守るためには、役所、弁護士、警察と複数のところに相談しつつ、情報を集めるようにすることが大切なのです。

しかしここで立ちはだかってくるのが“共依存の壁”です。モラルハラスメントを受けてしまう女性というのは、自己肯定意識が低く相手に支配されやすい人が多い傾向にあります。それゆえ私がこれまで相談を受けてきた女性たちも、いざとなると「自分は一人では何もできないから」と行動できない方がほとんどでした。本当に家を出ることができたのは、命の危険を感じた、という場合……。ただ、カウンセリングに行って相談をしているうちに、自分がいかにひどい環境にいるか痛感し、離婚する決心がついた方もいらっしゃいました。周囲に情報をくれたり励ましてくれる人がいれば勇気を持てると思いますので、そのためにもできるだけ多くの方に相談をされてほしいと思います。

家を出ることさえできれば、あとは法に従って粛々と手続きを進めるのみです。もちろん調停では話し合いにならず、裁判までいくケースも少なくありません。ですがそうなれば、裁判所に決定権がありますので、相手側がいくら持論を展開しようが離婚を拒否しようが関係ありません。時間はかかりますが、必ず決着がつきますので安心してください。

補足ですが、今回のご相談を拝読しまして、peromarchさんは、夫が自己愛制パーソナリティ障害であることが離婚理由になるのではないか、と考えられているのではないかと思います。実際、相手が自己愛性パーソナリティ障害と思われる離婚ケースは増えている印象があります。将来的には離婚理由として認められるようになるかもしれませんが、今はまだ確定診断も難しいですし、このタイプは人前ではきちんとしていて弁も立つので、障害が分かりにくい。それよりも「夫への気持ちがもうない」という理由で押せば十分通りますから、無理に相手の障害をハッキリさせなくとも良いかと思います。何より、実際に医師から診断が下ったところで、夫が良い方向に変わるというわけではありません。それよりも自分が変わったほうが早くて確実。そう考えて、行動に移されてください!

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PROFILE
  • 原口未緒(はらぐちみお)1975年生まれ。弁護士。学習院大学法学部卒業。2004年に弁護士登録。民事、商事、家事、刑事、倒産処理、債務整理など様々な案件を担当した後、2010年に「未緒法律事務所」を開所。夫婦、離婚案件を主に扱っている。法的な解決策を提案するだけでなく、コーチング、カウンセリング、セラピー手法を取り入れ、「心のケアもする弁護士」として人気がある。著書に『「この結婚もうムリ」と思ったら読む本 こじらせない離婚』(ダイヤモンド社)がある。自身は3度の離婚を経て、現在4度目の結婚をし、第一子をもうける。 この人の回答一覧を見る
  • 山本奈緒子(やまもとなおこ)1972年生まれ。6年間の会社員生活を経て、フリーライターに。『with』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。 この人の回答一覧を見る
 取材・文/山本奈緒子

 

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