トランプが漏らしたホンネ


その結果、世界はどういうことになるかと言えば、アメリカが撤退することで「力の空白」が生まれる。そこへ、第二、第三の大国である中国とロシアが進出する。

また、アメリカから大量に買った武器・兵器でもって隣国同士の緊張が増し、世界各地で武力衝突が勃発する。こうして「G0」(グループのない世界)の時代が到来し、新たな局地戦争と混乱の時代が始まるのである。

それは主に中東地域のことでしょうと、日本は拱手傍観しているわけにはいかない。中東が混乱すれば、当然ながら石油価格は高騰し、日本経済を圧迫していく。

それ以上に恐いのが、トランプ大統領が今後、東アジアにおいても、「撤退」を言い出すに違いないことである。特に「標的」にされるのが、在韓米軍である。在韓米軍の人数は公表されていないが、トランプ大統領は2017年11月の訪日時に「3万3000人」と発言している。その数を大幅に減らそうとするだろう。

昨年6月にシンガポールで行われた歴史的な米朝首脳会談は、私も現地で取材したが、何よりも驚いたのは、会談後にトランプ大統領が開いた記者会見で、「在韓米軍を撤退させたい。あんなものはカネの無駄だ」と発言したことだった。

「25時間、一睡もしていない」とボヤいたトランプ大統領は、1時間5分にわたる1年数ヵ月ぶりの記者会見に臨み、思わずホンネを漏らしたのである。

私はこの発言を聞いた時、同日午前中に約40分、「テタテ会談」(首脳同士と通訳だけのサシの会談)を行った際に、トランプ大統領が金正恩委員長に、在韓米軍撤退を約束したに違いないと直感した。

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もう一つ、トランプ大統領が金委員長に言及したのではと疑っているのが、「核は持っていて構わないから、こっそりしまっておけ。だが決してアメリカに向けて使うなよ」ということだ。

実は、トランプ大統領と金正恩委員長、そして両者の仲介役となった韓国の文在寅大統領の3首脳に共通している考えは、「北朝鮮の非核化」ではなく、「在韓米軍の撤退」なのである。だから今年は、「北朝鮮の非核化」をお題目に掲げながらも、「在韓米軍撤退」の論議が進んでいくはずである。

 

韓国では昨年来、ソウル市庁舎前広場に、文在寅大統領と金正恩委員長が笑顔で握手する巨大なパネル写真が掲げられている。そして昨年9月に南北連絡事務所が設置された開城では、全面的な南北協力が日々、双方で話し合われている。決して公開はされないが、そこで在韓米軍撤退問題が話し合われていたとしても、少しもおかしくない。

在韓米軍が撤退して困るのは、韓国(文在寅政権)よりも、むしろ日本である。「中国の脅威」が、アメリカ軍を介さずに直接日本に押し寄せてくるからだ。東アジアに「根本的な地政学的変化」が起こるのは確実だが、日本以外の周辺国は、むしろこの日を待ち望んでいるのだ。

日本がこの問題を重視しなければならないのは、中国の脅威が増すからだけではない。在韓米軍が撤退すれば、日本にとって頭痛の種となる「新たな脅威」が生まれるのだ。

20世紀中葉の第2次世界大戦以降の日本の脅威は、ロシア(ソ連)、中国、北朝鮮の3ヵ国だったが、新たに韓国が加わるのである。