「土に記憶を宿す」への挑戦


大森 孤高の作業とは違う体験をされて、より仁美さんの制作意欲も加速したんじゃないですか?

細野 たくさん刺激を受けたので、どんどんチャレンジしていきたい気持ちが強くなったかもしれません。アトリエにいると、やりたいことがあふれてきて毎日が本当にエキサイティングなんです。でも、一度、根を詰めすぎて手が動かなくなってしまったことがあって。連日、7時から23時くらいまで、ほぼノンストップで作業を続けてしまったんです。

大森 先程、作業を少し見せていただきましたが、あの集中力がその時間持続すること自体すごい! とはいえ、それでは身体が悲鳴をあげてしまうのは無理もないかもしれません。

細野 それからは月曜日から金曜日の8時〜18時。土日はしっかりと休むということを意識するようにしました。インスピレーションを鍛えることも忘れてはいけないな、と。植物を触ったその記憶を土に宿したいと思っていて、自宅との往復の時間では、公園などを通りながら、いろいろな植物を触っています。

大森 土に記憶を宿す! 指を通して魂を吹き込むピアニストのようですね。

細野 そうかもしれません。イメージしていることが指で追いつかないから、じれったくなってしまうことがあるんです。その乖離がどんどん小さくなっていけばいいな、と。鍛錬あるのみ、ですね。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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大森  活動拠点は今後もイギリスとお考えですか?

細野 生まれ育った日本に工房をつくりたい、と考えることはありますが、とにかく今はまだここでやりたいことがたくさんある、という感じです。でも、「どんどん日本が近づいているな」とも感じているんですよ。私の作品がたくさん日本で展示されることも増えてきましたし、日本で慣れ親しんだ草花と似たものをモチーフにすることも増えてきました。

  • 取材時に制作途中の作業を見せていただけることに。
  • 生命力を感じます。焼き上がりもいつか見てみたい!
  • こちらは焼き上がりの作品「花の箱」。まるで、宇宙に浮かぶ惑星のよう。


挫折を挫折ととらえない。大切のなのはモノを見る角度


大森 お話をうかがっていて、ご自身の揺るぎない確固たる信念。芯の強さ、羨ましい限りです。

細野 たとえば、人から見たら挫折かもしれなくても、私がそう思わなければ挫折ではないと思うんです。成功だったと思うことも、違う角度からみたら大失敗だということもある。「上手くできた!」と思っても、次の瞬間、「全部ダメかも」と自信がなくなってしまうこともしょっちゅうです。だから、考え方ひとつなんだ、と。「努力が全部無駄になるかも」と思い悩まずに、とにかく一歩踏み出すことをおそれずに。とにかく、やってみる。

「公園や道端でずっと花びらや葉を触っているから、気味悪がられているかもしれません(笑)。でも、視覚だけではなく、指にもきちんと記憶させるのがいちばんだな、と思っています」


大森  挑戦には挫折はつきものだけれど、それは別に失敗ではない。だから、前へ! 

細野 そうです、そうです。やってみなくてはわからないことばかりだし、今日の失敗が明日の成功の材料になることって本当に多いと思います。陶芸なんて、その極みなんですよ。とにかく、おそれず、あきらめず、止まらずに。

大森 とにかく、おそれず、あきらめず、止まらずに。はい、私もそうありたいです。本日は長い間、ありがとうございました!

細野 ありがとうございました。


撮影/在本彌生 
取材・文/大森葉子 
取材協力/フィスカース ジャパン
 
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