志ん生のふたりの息子を見事に演じ分けた森山未來。写真は志ん生の次男・朝太。
第19回 「箱根駅伝」 演出:大根仁
あらすじ
日本を走り尽くした四三(中村勘九郎)は次にアメリカ横断大駅伝レースを思いつき、その参加者選考のため、箱根駅伝を開催する。その頃、ベルギーのアントワープにて8年ぶりにオリンピックが開催されることになり四三は熱り立つ。 無念にもマラソンがオリンピック競技から外されてしまうが、箱根駅伝の感動的なゴールを見た第2代大日本体育協会会長・岸清一(岩松了)はマラソンのないオリンピックなんて……とその復活を誓う。


いわゆる「神回」


オープニングでバレー選手になったかと思えばハードル選手にもなっているスヤ(綾瀬はるか)がドラマのなかで懐妊したら、現実で知恵役・川栄李奈、阿仁子役のシャーロット・ケイト・フォックスが続け様に妊娠を発表。おめでたいことが続く「いだてん」。19回はおめでたいお正月の場面もあって、その立役者は森山未來だった。
19回を見たあと、「#森山未來、おそろしい子!」とツィートしたら、いいねもリツイートも多数、ものすごいインプレッション数になった。元ネタは、「ガラスの仮面」で主人公の北島マヤの演劇能力を目の当たりにして月影先生が「おそろしい子!」と慄く場面である。

森山未來はこの回、まさかの登場をした。昭和36年正月、箱根駅伝に合わせて複数の落語家によって行われた「箱根駅伝落語」(作:五りん、あとで、戦争で亡くなった父親が箱根駅伝に参加していたと明かされる)は、四三が行った箱根駅伝を駅伝形式で語る趣向。明治と昭和、ふたつの時代を並行して描くことがおもしろさのひとつである「いだてん」で、第一回箱根駅伝のリアルタイムな描写と、後に落語化して伝える描写とがみごとに重なった、いわゆる「神回」となった。

志ん生(ビートたけし)→五りん(神木隆之介)→今松(荒川良々)→清こと金原亭馬生→強次こと古今亭朝太→朝太→馬生→今松→五りん→志ん生 と順番に話を語っていく。この金原亭馬生と古今亭朝太と志ん生の息子であり落語をやっているふたりを、演出家の大根仁のアイデアによって森山未來が演じた。ひとり何役も演じ分けることは演劇などではよくあることだし当の落語がひとりで何役も演じ分ける芸。とはいえひとりで落語家を三人演じ分けることは至難の業であろう。型破りな若き志ん生(孝蔵)、巧い馬生、巧いうえ華がある朝太と、森山は三人の落語家を鮮やかに演じ分けた(ただし、この回、孝蔵は登場していない)。落語指導した古今亭菊之丞はツイッターで、長男で苦労し若いが老成した馬生と、次男で苦労知らずの朝太の差について森山がいかに巧みに演じたか解説している。ふたりの年齢差・11歳差はヘアメイクなどの助けも借りて明快になっていた。顔色も違う気がしたら「編集作業の【グレーディング】という画面の色調を整える最終工程の時に、2人の肌のトーンに違いを出しました。馬生が白いというよりは、朝太の肌ツヤや血色を強く出したというカンジです」と大根。森山がふたりの落語家を演じることに決まったのは撮影の2~3ヶ月ほど前。とはいえ、孝蔵として常に撮影をしているので、与えられた第19回単体の馬生と朝太の準備期間は一週間くらいだったと思うと大根。その間にそれぞれの落語の稽古をしたそう。総力戦で取り組んでいる感じだ。

中村勘九郎の金栗四三の生真面目な表現もすばらしいことをあらかじめ断っておいたうえで書くと、これまでも主役ではないにもかかわらず森山未來に目がいってしまう回が多かった。「いだてん」の主役は中村勘九郎と阿部サダヲ(第二部からの田畑政治役)で、森山未來は狂言回し(語り部)のはずが、いやいやトリプル主役ではないかとどうしても思ってしまう。「森山未來、おそろしい子!」と唸ったのは、演技が巧過ぎるということと並び、「ガラスの仮面」でマヤが何をやっても目立ってしまう“舞台あらし”と呼ばれることにも起因している。どうしても目立ってしまうのだ、森山未來は。

 
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