「演劇」を活用し、さまざまなコミュニケーションで教育活動を行ってきた劇作家で演出家の平田オリザさん。大学入試改革にも携わっている平田さんは、演劇を学ぶ初の国公立大として、2021年度に開校する予定の国際観光芸術専門職大学(仮称)の学長就任も決まっています。連載「22世紀を見る君たちへ」では、これまで平田さんが「教育」について考え、まとめたものをこれから約一年にわたってお届けします。
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問題となった設問を劇作家の視点で読み解くと…
そういったわけで、この試行調査は課題山積なわけだが、私は少し別の角度から、この「問3」には問題があるのではないかと考えている。この設問に関して、大学入試センターが発表した正答例は、以下の通りだ。
※試行調査の問題および正解表は、大学入試センターのHPにて公開されています。平成29年度試行調査はこちら
確かに、部活動の終了時間の延長の要望は多く、市内に延長を認める高校も多いことから、延長を提案することは妥当である。しかし、通学路は道幅も狭い上に午後六時前後の交通量が特に多いため、安全確保に問題があり、延長は認められにくいのではないか。(118字)
しかしながら、私は、以下のような答案も可能なのではないかと考えた。
確かに部活動の終了時間の延長の要望は多く、市内に延長を認める高校も多いことから、延長を提案することは妥当だ。しかし、大会前だけの延長を提案すると、勝利至上主義と受け取られ、生徒会部活動規約第2章第5条と矛盾すると受け取られるのではないか。(119字)
【会話文】の流れとしては矛盾はなく、これも正答にしてもいいのではないだろうか。ただ、この別解の弱いところは、問題文の方に、「それぞれの根拠はすべて【資料①】〜【資料③】によること」と書いてある点だ。
しかし、【資料】ではない「生徒会部活動規約」は、問題全体の冒頭に示されており、設問全体の背景となっている。問3でも「規約」を参照してはいけないとは書いていない。また、この別解でも、他校が「大会・発表会等の前」には延長が許可されているという【資料②】の記述にはかろうじて関連付けてもいる。【会話文】の中にも、「いつもあと少しのところで赤雲学園に勝てない」「わたしも、せめて試合前には練習時間を延長してほしい」という発言のあとに、それを補強する材料として【資料②】が示されている。
以上のことから、この別解でも、【資料】に言及していないとまではいいきれず、これを完全な誤答とするのは難しいのではないだろうか。ただし、大学入試センターが示した正答の条件では、この別解は、あきらかに誤答とされてしまう。
もう一点、私が問題に思うのは、この別解の方が「面白い」という点だ。
私がこの別解も妥当だと考えるのは、会話文の冒頭で、森の発言が、島崎によって「規約どおりに進める必要があります」と素っ気なく却下されたからだ。新聞部長として、言葉に自信を持っていた森は無意識のレベルで傷つき、その後は沈黙する。そして、後段の島崎の「わたしも、せめて試合前には練習時間を延長してほしい」という発言に、反感を覚えたのではないかと考える。もし、これを意図して書いているとすれば、戯曲としては見事な伏線だ。
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