「演劇」を活用し、さまざまなコミュニケーションで教育活動を行ってきた劇作家で演出家の平田オリザさん。大学入試改革にも携わっている平田さんは、演劇を学ぶ初の国公立大として、2021年度に開校する予定の国際観光芸術専門職大学(仮称)の学長就任も決まっています。連載「22世紀を見る君たちへ」では、これまで平田さんが「教育」について考え、まとめたものをこれから約一年にわたってお届けします。
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いよいよ始まる「共通テスト」の問題点とは


ここまでの連載では、主として大学入試改革において各大学に課されている課題を見てきた。今回は、振り出しに戻る形で、「共通テスト」と呼ばれる新しい統一試験の内容について考えてみたいと思う。あらためておさらいをしておく。

現在の「センター試験」は2019年度(2020年1月実施)が最後となり、それに代わって、2020年度入試(21年1月実施)から「大学入学共通テスト」(以下「共通テスト」)がスタートする。2021年4月入学予定者が受ける試験となるので、この4月に高校二年生になった生徒たちからが対象者となる。

この共通テストについては、当初(2013年くらいまで)は、「年複数回の実施」「一点刻みではなく段階別の評価」「外部検定試験の活用」などの提案がなされていた。しかし具体的な計画立案の段階に入ると、議論は混迷を極め、未だに方向が定まっていない部分さえある。

まず、「年複数回実施」は高校側からの猛反発であえなく見送りとなった。高校三年間の学びの前提となる学習指導要領の範囲から出題する以上、高校三年の早い段階での実施は不可能という理屈だ。また、「段階別の評価」もおそらく、いまの方向で進めば実施されないだろうと考えられている。

私自身は、アメリカの大学を受験するときに必要になる標準学力テスト(SAT)のように、全体に難易度を下げて、きわめて基礎的な学力を問う試験に徹した方がいいと、いまでも思っている。なんなら「高校卒業程度認定試験」(旧大学入学資格検定=大検)とも合体させて、高校に行かなくても大学に行けるシステムを、より定着させた方がいいとも考えている。しかし現実には、そのような方向での実施は難しい。アメリカの場合は、学習指導要領といった全国一律の縛りもないので、単純な比較ができない点もある。
 

“差”をつけるための試験はもういらない


そういった点もふまえて、これまで書いてきたことも含め、「共通テスト」に関する私の考えは以下の通りである。

・選り好みをしなければ、進学希望者がどこかの大学には入れる「大学全入時代」に、受験生の「差」をつけやすくする入試制度は時代遅れである。

・そうはいっても、上位校は、これからも選抜を厳しくしなければならないので、「共通テスト」は、まさに各大学への受験資格となるような基礎的なものとして、「差」をつける試験は、各大学が手間暇をかけ、ユニークネスを競う形で行えばいい。必要ならば各大学も、さらに二段階選抜を行ってもいいと思う。

・また、中堅以下の、ほぼ全入の大学においても、本当の基礎学力、いわゆる「読み書きそろばん」+簡単な英語力くらいは必要なので、そちらを徹底的に問うような設問にした方が現実的である。また、その方が、高校での受験指導も実質的に向上するのではないか。

だが、現状は、そのようには進んでいない。特に私の専門に近い国語の試験は様々なレベルで混乱が起こっている。とりわけ議論になっているのが、記述式問題の導入とその内容だ。

 
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