「演劇」を活用し、さまざまなコミュニケーションで教育活動を行ってきた劇作家で演出家の平田オリザさん。大学入試改革にも携わっている平田さんは、演劇を学ぶ初の国公立大として、2021年度に開校する予定の国際観光芸術専門職大学(仮称)の学長就任も決まっています。連載「22世紀を見る君たちへ」では、これまで平田さんが「教育」について考え、まとめたものをこれから約一年にわたってお届けします。
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台詞作りをなめるな


前回は、2020年度から実施される大学入学共通テストの試行調査において、別解が存在するのではないかという指摘をした。もちろん、この指摘は少し斜に構えたもので、真剣な議論ではない。もし本当に試行調査に別解があったとなっては、たいへんな騒ぎになるし、もとよりそのような批判をしたいわけでもない。

 

私が勤務する大阪大学も、2016年度に実施した入学試験で、本来複数の解答がある設問について一つのみを正解とするミスを犯した。この件は、外部からの指摘をいただいたにもかかわらず対応が遅れたために、問題がさらに大きくなり、関係各位に多大なご迷惑をおかけした。私は直接、そこに関与していたわけではないが、同じ組織の人間としては申し訳なく思う。

一方で、入試問題が高度化し、文部科学省が要求するような「思考力」を問う設問を出題しようとすると、複数の解答が出てくることは避けがたい。そのこと自体はかまわないのだが、ただ、それを、受験生の多い共通テストで行うのは難しいのではないかというのが、この連載で書き連ねてきた点である。先回、取り扱った試行調査の問題は、思考力を試しながら、しかし採点は簡単にするために、解答の条件を細かく設定していた。これは本末転倒な話だ。

さて、私が、さらにそれより問題に思うのは、これまでの試行調査で、毎回のように、いわゆる「会話文」が出てきている点だ。先回紹介した試行調査でも、要するに会話文(台詞)を書いたことのない素人が問題を作成していることは一目瞭然だ。会話文の特徴がまったく理解されておらず、私たち劇作家からすれば「台詞作りをなめるな」と言いたくなる。そして、これは一回だけの事柄ではない。

 
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